325:図書館では無いダンジョン?(ミントとの打ち合わせ4)
【第三層群・管制室】
「この世界では布告は高札など文字なので、識字率は前近代社会としては高めですが、小作人や奉公人などは読み書きが出来ません。今後、官僚機構の整備や農業書の普及により読み書きの必要性を高め、手習所を小学校へ発展させます。義務教育の導入は即座とは行かないでしょうが、可及的速やかに進めます。もっとも、遺伝子による機能的非識字の問題があるため、識字率は8割がせいぜいと思われます。」
機能的非識字とは複雑な文章の内容を理解出来ないこと。要は本を読むことが出来ない。
「異世界日本で言うと、本来義務教育は9年だが、小学校卒業後、高等小学校にも実業補習学校にも進学しなかったり、途中で行かなくなる層か。」
「本来、その2割は福祉で対応すべきです。一方、義務教育以降の教育ですが、順次学校を整備し、産業基盤の整備と図書館の知識を越えた研究開発体制の確立を目指します。」
「側近書記殿、図書館を越えた?」
「はい。このダンジョンには数千万冊の本がありますが、それらは残念ながら異世界の『既知の』知識に過ぎません。いずれ陳腐化する運命ですから、さらに先へ進む必要があります。」
「その数千万冊、文学とかはさておき科学技術関連すら全く使いこなせていないのが現状だが。」
「このダンジョンのシステムは資格重視ですからね。修士があればダンジョンマスターの仕事は可能ですし、秘書の国家資格である『国会議員政策担当秘書』の認定を受けていれば秘書の仕事が勤まります。つまり、司書の資格を持つ者が居れば、寝ていても図書館としては最低限機能します。しかし、ダンジョンモンスターや眷属に司書を召喚出来ないため、手作業で、電算機は使いますが、本を管理しないといけません。」
なお、民間企業の社長秘書等には国家資格は無い。しかし、ダンジョンマスターが秘書を召喚しようとしたとき、コアは最初に国家資格を調べたためこうなった。もちろん司書も学芸員も国家資格。もっとも、この世界では医者すら無資格でも警察も奉行も来ないが。
「それで、住民から何百人も職員を採用して何とか廻そうとしている訳か。」
「それは、いずれにせよ貸し出しや本の整理など物理的な実体のある仕事は人か機械がやらないといけません。司書が居ないため蔵書目録の管理が手動になりミントの分身が多数必要になる。というのが違いです。」
「けっこう面倒だからなぁ。たまに本を紛失する者が居るので再調達が必要だし。それこそ、科学技術を優先し、文学とか芸術とかは当面封鎖で良い気がするが……。」
「ただでさえ図書館かどうか怪しいのに、貸し出し分野の制限までしたら、もう『図書館』の看板を書き換えた方が良いでしょうね。なら、このダンジョンは何なのか。と言われると困りますが。」
「機能的には農作物集散地を基本とした行政・商業都市だが、それだと『ありきたり』だな。異世界の科学技術をこの世界にもたらし、文明を加速させるための存在。か。」
「未だ、ダンジョンにもマスターにも名前、固有名詞が無いんですよね。足立と言うのは地域名ですし。」




