323:長期的な人口対策(ミントとの打ち合わせ2)
【第三層群・管制室】
「修羅や獣人はほとんど増えないので無視して構いません。人口問題は、すなわち人間問題です。」
「ほっておくと25年で倍増するんだったな。」
ミントが言うように、マルサスの人口論によるとアメリカの人口は25年で倍増したが、必ずしも全ての場合に適用される訳では無い。
「人口抑制は不可欠ですが、異世界で行われた人口抑制策で、このダンジョンでは採用できない3つの人口抑制策があります。」
「ふむ。」
「まず『貧国弱兵』戦略。意図的に国土を荒廃させ、貧困と疫病を蔓延させ、政治的にも内紛を起こす。どこか外国が攻め込んでも疲弊するだけで得る物はない。というものです。生存戦略としてはきわめて強力ですが、人間牧場には致命的に向きません。」
「感情がすり減るからな。人口過剰によって人間牧場が崩壊する直接の原因が飢餓と貧困だ。」
「人口を抑制するだけなら経済を低迷させるのが一番ですが、人間牧場では採用不可能な方法です。次に、スパルタやカルタゴのように、子供を殺すことによる人口抑制。この世界でも、子供ではありませんが『石の神殿アスカ』が生贄の多用で人口を抑制しています。これも、この地域の住民の常識と大きく異なるため、導入は困難です。」
「古事記の時代から、生贄を要求する妖怪は退治されるもの。この世界の古事記が元から有ったのか、過去に異世界から持ち込まれたのかは不明だが。」
「最期に、宗教を奨励し聖職者を増やす。僧侶は大抵の宗派では独身ですが、いくら奨励すると言っても僧侶の数には限度があり、解決策にはなりません。」
「なら、採用できる人口抑制策は?」
「わたしが見つけた範囲だと5つありますね。全部が有効とは限りませんが。まず、人口密度が高く娯楽の多い都市を用意する。それこそ狐カフェも活用する。異世界日本が江戸時代に人口抑制に成功したのは、飢餓や疫病の影響もありましたが、江戸や大坂といった大都市による人口抑制効果もありました。」
「ダンジョン本体は100万人くらいは居住できるか。」
「延床面積3617万㎡ですから、倉庫や商店もあるため、おそらく50~60万人でしょう。将来、多少ダンジョンエネルギーが割高になりますが、城壁上の衛星都市に『一部の世界にしか無いタワーマンション併設の公共図書館』を多数召喚すれば良いでしょうね。」
「2つ目は?」
「避妊と去勢を普及させることで、子供が欲しい場合以外は子供を作らないようにする。安全な男性用非ホルモン性経口避妊薬は異世界でも普及が21世紀に入ってからで、高度な医薬品工場が必要なので時間は必要ですが、去勢はもうすこし早く普及させられるでしょう。」
「間違えて獣人が使って絶滅したりしない対策が必要だな。」
「獣人も世界全体ではたくさん居るでしょうから、絶滅まで心配しなくて良いと思います。それで3つ目。乳幼児死亡率をゼロ同然に引き下げる。単独では効果はありませんが、次の4つめと組み合わせることで、多くの欧州諸国は人口増加率を年1%以下に抑えています。」
「年1%でも70年で倍増するので、恒久的解決にはならないな。」
「25年を70年に引き延ばせば選択肢は増えます。4つめは義務教育の導入と児童労働の禁止。子供を労働力として使えなくすることで、子沢山への経済的誘因を無くします。さすがに田植えや稲刈りは当面の間、子供も動員しないと追いつかないでしょうが。」
異世界日本でも農村部では20世紀後半頃まで農繁期には学校は休みになった。
「農業技術の向上で空いた労働力をどんどん製造業に廻していく訳か。」
「あと、技術開発ですね。これについては後ほど詳しく説明しますが、人口問題の解決策としては宇宙開発。フランスみたいに人口抑制が上手く行くとは限りません。長期的には惑星の生産力の限界を越えますので、将来的には宇宙開発が必要になります。」
「宇宙か。」
「イギリスのセシル・ローズは『内乱を望まないなら帝国主義者とならなければならない』『できることなら遊星をも併呑したい』と言っています。わたしは近隣諸国を併合して引っかき回すつもりはありませんが、宇宙ならおそらく誰も居ませんし、侵略したところで倫理的問題は無いでしょう。ただ、この世界の宇宙に異世界の宇宙開発が適用出来るかは不明ですが。」
「どうやら世界は惑星サイズの球体らしい。というのは確かなようだが。」
「これが亀の上に乗っていたり、須弥山があったりする世界なら、宇宙開発どころではありませんからね。」




