321:相撲に水を引く
六者会合は、図書館都市ダンジョンと武蔵・総・毛・相撲・東(ただし小田)の近隣五ヶ国からなる。
参加者は全て利己主義であり、自分たちさえ良ければ良いのであるが、マリーは別に天下布武とか考えていないし、近隣諸国もダンジョンに攻め込んで筑波や粟のような目に遭ったり、互いに不毛な争いをするよりも、協力して利益を最大化する方が得。と手を組んでいる。
【第三層群1階】
「ダンジョンは、その中に居る人から力を得る。だったな。」
相撲の茶坊主、大膳亮入道照頭が言う。
「はい。人の感情と生命がエネルギー、つまり力の元ですね。普通は冒険者が出入りしたり、せいぜいダンジョン影響圏内に鉱山村があったりする程度ですが、このダンジョンでは多数の農村を作っています。」
「このダンジョンの『範囲』は、我が相撲にも入っているであろ。武蔵府中から、相撲本郷を経由し、湯に向かう転送陣は大いに活用させて貰っている。」
「暴走の結果です。ご心配を掛けてすみません。」
「それで、この廻り、といっても高すぎてよく見えぬが、田畑はダンジョンの近くから順番に作る必要はあるのか。」
「いえ、条件は、ダンジョン影響圏内であること、標高がダンジョンより低いこと。ですね。転送陣や水路の関係もあり、現状、かなり虫食い状に開拓を進めています。」
「ならば、我が相撲本郷の前に田畑を作ることは可能だろうか。住民もあまり遠くまで引っ越す必要も無いし、収穫した米もすぐ本郷へ運ぶことが出来る。」
「本郷の前なら、ダンジョンより標高が低いので可能でしょうね。一方、東側の相撲川添いは、もし甲で雨が降ると洪水が起きるので不適です。しかも、甲中心部で人間と畜生がかかる病気が異世界と同じ物なら、下流に大規模な水田を作るのは自殺行為です。」
異世界の相模川と異なり相撲川は甲中心部から流れてくる。
「本郷の隣なら、便利だし好ましい。」
「ただ、ダンジョンが力を得るために、村や交易拠点となる町も影響圏内に作らないと収支が赤字になります。また、武蔵の平塚と同様に、周辺農村は相撲が統治しても、拠点となる町の中枢部はダンジョンで管理しますが、いわば、相撲の領内にダンジョンが管理する地域が誕生することになりますが、政治的には大丈夫でしょうか。」
「既に、本郷からたった3里の距離にダンジョン影響圏がある以上、その気になれば即座に何でも出来るだろう。それこそ高さ4万尺の壁を召喚してから倒して本郷を丸ごと潰すとか。何を今更。」
「わたしの領民が迫害されたとか、あまりにも人として許されない統治が行われているとか、よっぽどの事が無い限りそんなことしませんよ。それに、今後はそう言う場合も、五位鷺の空挺部隊を降下させ、ヘリコプターでウサギを送り込む方針です。」
「ふむ。何やら未知の戦法のようだな。」
聞いたことの無い単語にも全く同じない入道。
「交易拠点は、え~と、小磯……大磯にします。」
「武蔵府中の新倉、総国府台の市川、毛総社の箱田、東は小田城で太田か。東は政府が無いから仕方ないが。」
「織田城を支援して安定化させようとはしているのですが、既に荒廃がすすんでいますからね。東の方はダンジョン影響圏に組み込むことも出来ませんし。」




