318:米切手の支給
【第三層群1階】
収穫祭後、蔵米取りの家臣達には、マリーから印刷機で精巧にカラー印刷された番号入りの米切手が支給される。別にダンジョンの倉庫群から直接玄米を受け取っても良いが、食べる分以外は換金するので米切手の方が便利。換金するんだから金銭でも良いようなものだが、米で俸禄を貰うということが武士には重要。
住民の人数もだいぶ増えてきており、マリーもさすがに全員の顔と名前は一致しなくなってきたが、世界樹の記憶を使うことで直臣・官僚全員と主立った住民は覚えている。
【第三層群屋上庭園】
「これ以上直臣が増えたら、米切手を渡すのも1日では終わらなくなりますね。江戸幕府は御目見以上の大名・旗本が5,000とか6,000とか居たそうですが。旗本は大抵知行取りなので直接米を渡す必要は無かったでしょうが、拝謁の権利はありましたからね。」
「そういう所でもダンジョン都市の規模は制約されるのかな。社会的に全部官僚という訳にも行かないし。」
「住民の常識自体が、頭を叩いても文明開化の音なんかしませんからね。因循姑息とまでは言いませんが。でも、無理に変えたら一揆、この場合は御家騒動ですか。わたしに明治維新は手に余ります。このまま武士(世襲)と官僚(試験)を併用するしか無いでしょう。」
「基本的に人は保守的だからな。ただ、マリーさんに言うのもあれだが、官僚にも問題は起きないか。」
人間でも修羅でも畜生でも。おそらく餓鬼も。むしろ畜生の方が人間より保守的なことが多い。
「中国の科挙は試験が難しく内容も偏っていたため弊害だらけでしたが、それに対し日本の公務員試験はそんなに難しくはありません。あえて試験を平易にし、大学の授業に加え中外商業新報あたりを読んでいれば合格できる程度とすることで門戸を広げています。ですから、少数の例外は付きものですが、一般的にはそう致命的なことにはならないでしょう。」
「ダンジョンが成長したら、役所が足りなくなったりはしないか。」
「類縁機関として各省の図書館もいくつか複製召喚していますから、層群を組み替えて利便性良くまとめて配置すれば転用は容易です。」
「マリーさん、米切手だが、偽造対策は大丈夫だろうか。」
「米切手の取引は全てダンジョンに登録すると定めていますから、偽造されても影響は最小限で留められます。さらに、元のデータ無しで米切手を読み取って複写するとなると、どうしても画像に細かい差異が出てきますから、少なくとも21世紀以降の技術力が無いと偽造はできません。」
「つまり、もしニセモノがあれば、必ずどこかに高い技術を持つダンジョンがある。ということか。」
「はい。ニセモノがあれば最大の警戒が必要になる。ということです。必ずしも技術水準が外征能力に直結する訳ではありませんが。」
「もし兵器系のダンジョンなら世界大戦水準でも脅威になりうるな。」
「機関銃や戦車が相手ならダンジョン構造物で防ぐことは可能ですが、長射程の大砲や航空機への対応は困難です。飛行船ですら五位鷺より高速です。」




