315:東奔西走
東の無人の砂漠、科の山岳地帯、湯や粟の辺境、越に食い込んだダンジョン影響圏。多くは転送陣で、時には尾花栗毛に乗り、マリーは世界を1周できるほどの距離を移動。
この世界の1%にも満たない範囲とは言え、その環境は多様……どっちみち砂漠には違いは無いが。
【第三層群屋上庭園】
「周囲1,000km、どこまでも砂漠ですね。この屋上庭園は、いわばバビロンの空中庭園みたいなものでしょう。」
「そして、地の果てからも見ることが出来る。」
「さすがに1,000km離れていると塔自体があまりにも細いので、位置を知っていないと気付きませんね。いずれ世界樹が大きく枝を広げたら、遠くからでも存在が分かると思いますが。」
「そんなに大きくなるものなのか。」
「世界樹ですからね。普通のローズマリーの高さは人間の身長と同じくらいですが、ダンジョンの力で熱帯早成樹並の速さで成長していますから、そう遠くないうちに。ただ、そうなると、展望台どころか、この屋上庭園でも土が足りなくなりますから、第三層群の地上高さに合わせて横へ広げ植栽升を作る必要があります。」
「以前話題になったラピュタだったか。」
「そこまで大きくする必要は無いでしょう。それに340億tもあったらさすがにダンジョン構造物と言えども支えられないと思います。」
「それで、さしあたっての脅威は無さそうと。」
「ですね。那須塩原と本気で戦うなら別ですが、日本駄右衛門を退治しない限りそれも出来ません。大型、あるいは強力なダンジョンはいくつもありますが、今のところ衝突の危険は無いようです。」
「逆に、こちらからダンジョンを攻撃する事は?」
「毛と越を結ぶ街道に居座る『魔の山谷川』を街道を切ることで衰退させる。くらいですね。直接攻撃はしませんし、おそらくマスターも居ないダンジョンですから、街道が廃道になっても気付かず勝手に崩壊するでしょう。」
「街道か。街道の難所が実はダンジョン。って他にもありそうだな。たまに遭難するだけなら自然な事故と思われるだろうし。」
「確認が必要ですね。とはいえ、影響圏が不自然に拡張できない。などが無いと、なかなかダンジョンの存在は分かりませんが。」
「街道に居座っているダンジョン以外は放置。か。」
「他は必要ありません。那須塩原も、標高が高いので仮に滅ぼしても灌漑が出来ません。」
「山の上に水を汲み上げるのは非効率だからなぁ。」
「標高が低くダンジョンから水を引くことが可能な場所となると、武蔵の村々や織田城みたいに、むしろ味方が影響圏拡張の邪魔になっています。」
「かといって滅ぼす訳には行かないな。」
「住民含め信頼を失いますからね。人間牧場には出来ないことです。」
「それに、ダンジョンは外征が苦手だからな。それこそ、特殊な固有法則でダンジョン影響圏外で活動可能なドラゴンでも居れば別だが。」
「固有法則も『何でも有り』ではなく、影響圏外となると限界がありますからね。ドラゴンなんてダンジョンから出たら、飛べないどころか自重で潰れてしまいます。人間に化ける。といったところで、変化もダンジョン内でしか出来ません。」
「ああ、狐狸も所属しているダンジョン影響圏内以外では変化出来なかったな。」