314:サド金山と魔の山谷川
【越の国・山本山】
越の国の本体と、山側の魚沼との境、山上にダンジョン構造物による量産型埼玉タワーが立っている。
「向こうに見えるのがサドですね。」
北西方向、地平線の彼方に険しい山が見えている。
「正確には、あれはサドの手前側にある山だな。サドの中心雑太は山の向こうで、金山はさらに遠く70里ほどあるから、歩いたら10日くらい必要だ。」
越から来た両替商、越後屋が言う。平地の真ん中に渟足柵と言う大規模な城塞都市があり、サドはその向こうになる。つまり、異世界とはだいぶ地形は異なる。
「金を産するダンジョンでしたね。」
「人間から金を採集できるダンジョンだが、生産効率は悪く、1人から2両にしかならない。採集した金に少量の銀を混ぜ、叩いて延ばし小判にする。また、各地のダンジョンから直接産する小判は品位がまちまちなので、サドで溶かして規定の重さの小判を生産している。これらを包装・封印して出荷する。」
「奴隷から金を産すると聞きましたが。」
「奴隷では到底足りないので越では広く一般からも1人1両で金を買い取っている。このため、買い取りを拒否される少数の種牡人以外は若いうちにサドへ行く者が多い。ただ、『女王様』が豚と罵って鞭で叩くのですが、その過程で変な性癖に目覚める者が多々おりまして……。」
「はい? しゅぼじん?」
「あ~、坂東では一般的ではありませんね。宦官とは違いまして……」
説明はR18なので省略。
「種牡馬の人間版ですか。異世界でも、馬匹改良に倣って人種改良を進めようという運動で、民法を改定し家族制度を廃止して、そういう制度を導入しようとした一派は居ました。ですが、それでは真社会党に繋がりかねないと叩き出されています。」
真社会党は人間社会に真社会性を導入しようとする政党。蔑称はシロアリ党だが、ハダカデバネズミが真社会性ということが判明して……。
「越の者が真面目で忍耐力がある努力家なのはこのためですが、人によっては苦難を悦ぶようになり、お酒以外の浪費はせず、再度サド金山へ行くために蓄財します。」
「再度金を採集する。ですね。」
「いえ、お金を払って罵られるのです。サド金山ではそのお金も溶かし、金は鋳造し小判に、銀や銅は出荷されます。」
「つまり、単純に金を産するのみならず、雑多な金銀銅を集めて、小判と地金を作っている。ということですね。」
「それがサド金山の機能です。しかし、問題がありまして。」
「海賊が出る。とかでしょうか。」
「それもありますが、最大は地形の問題です。越の南東側、つまり坂東側は険しい山岳地帯で危険なダンジョンが点在しています。特に街道に居座る『魔の山谷川』は、ここ100年ほどの間に知られている限りで800人もの商人や旅人が命を落とし、峠近くには骨だらけの池があります。」
「それで、わたしのダンジョンの転送陣を使えないか。という話ですね。」
「さすが、名にし負う図書頭様。話が早い。両替商は関八州とサドを行き来しなければ商売になりません。魔の山は我が伯父の敵。なんとか出し抜けぬかと考えていたのですが、こういう素晴らしい物が現れたなら、いずれ魔の山も干上がって崩壊するかと。」
越人は種牡人を使うため家庭には「父親」はおらず、セン人の伯父・叔父が代わりとなる。
「転送陣もダンジョンの機能ですから、いずれにせよ命と感情が必要なのは同じなのですが、わたしは転送陣はお金で利用させ、そのお金でダンジョン内の町や村を維持する方法をとっています。那須塩原も生贄とか言わずこういう方法をとった方が良いと思うのですが。」
「まだ那須塩原は事前に生贄を要求するだけ良いし、奥州へ行く事は無いので無関係だ。魔の山は突如牙を剥くから質が悪い。」
「どうやら、知能が無いダンジョンのようですからね。」
「これからよろしくお願いします。それで、図書頭様。越後の笹飴でございます。」
越後屋はずっしりと重い菓子箱を差し出す。
「分かりました。確かに受け取りました。そのように手配させていただきますね。」
ここで、「越後屋、お主も悪よのう。」「いえいえ、ご領主様ほどでは。」とならないのは、別に誰かを蹴落とすための賄賂とかでは無く、単なる付け届けのため。魔の山谷川にダンジョンマスターが居るのなら「賄賂だ」と言うかも知れないが。




