312:小田城
【東国境・太田橋】
「図書頭殿、東の情勢は混沌としていますが、小田城下はいたって平穏です。」
小田右京亮がマリーを出迎える。なお、相変わらずマリーは「織田」と思っている。
「筑波は完全に力を失っていますし、あと危険なのは佐竹常陸介くらいでしょうか。」
「問題は、東の守りに不安があることです。ですが、大掾氏あたりは滅びかけで、府中はほとんど廃墟なので、その向こうの馬場城から進軍するとして100里。差し迫った問題では無いでしょう。」
「右京亮さん、何なら、この太田橋の西側、ダンジョン影響圏内に織田城を移転させたら、佐竹氏でも何でも攻め込むことは困難になりますが。」
「いえ、小田家は先祖代々、何百年も小田城を守ってきました。仮に落城することがあっても、必ず取り返してきました。確かにダンジョンの力を借りたら有利でしょう。しかし、小田家は小田城を離れる訳にはいかないのです。」
「岐阜や安土と本拠地を移転する方が良い場合もありますが、無理はいいません。織田城の東の守りを固めるために協力できることはしますし、落城するときは退却を援護します。」
「ありがとうございます。」
「それで、織田城に大昔の記録は残っていないでしょうか。」
「昔の?」
「はい。この地域の歴史記録をまとめている、というのと、ダンジョンを末永く存続させるために何か参考にならないか。と。」
「ダンジョンはすぐに無くなることもあれば、古いのは何百年・何千年も経っているというし、そこは分からない。古い、と言えば、はるか西の『縄文王国諏訪湖』は1万年も続いていると言うが真偽は不明だ。」
「入間のずっと向こうですね。残念ながら影響圏が届かない場所です。もし使者を送るにしても、安全の確保が課題になりますね。使者が死者になってしまっても報復の手段がありません。」
マリーは地図を見ながら言う。
「報復ですか。」
「『図書館都市ダンジョンは逆らう者を容赦しない』と徹底することで、住民の安全は守られます。最近は海賊も出ません。ただ、那須塩原に依頼するには生贄が必要なのですが、海賊が居ない生贄も入手出来ません。もちろん、奥州の『日本駄右衛門』など、影響圏外には海賊は居るのですが、捕まえる方法がありません。」
「ダンジョンの外に落とし穴を掘るわけにいかないな。でも、もしダンジョンが外に手を出すことが可能で、ダンジョンから怪物が出てくるのなら、みんな安心して寝ていられないことになる。小さいダンジョンはけっこうそこら中にあるから、さすがに全部は把握していない。」
「そこなんですよね。村も無いのにダンジョン影響圏が広げられない。なら、ダンジョンがあると推測出来ますが、他の村の向こうにダンジョンがあっても分かりません。もし産物が有用なら、冒険者を送り込んで採集するのですが。」
「この辺りでは図書頭様のダンジョンが一番有用だと思う。」




