311:前線視察
【左遷城方面・電波塔・頂上】
北40km程に位置するのが左遷城。そのさらに北にあるとされる日本駄右衛門のアジトはどこにあるか分からない。
「越前屋さん、日本駄右衛門はどこに居るのでしょうね。」
「図書頭様、左遷城の北方面で活動している、というだけで、特定の根城は無いでしょう。左遷城はさほど豊かな町でもありませんから、数十里離れた白河・二本松方面にも出没しているのか、あるいは、そちらでは荷物運びなど合法な活動をしているのか。」
「この塔から見えない場所に居る。という可能性もありますか。」
「左遷城からそう遠くには居ないと思われます。おそらく海賊とは知られていない配下が、冒険者か商人のふりをして左遷城から食料を入手していると思われます。」
「……確かに、海賊かどうか。なんて分かりませんね。分かるのは、ダンジョン影響圏内に居る誰かが図書館都市ダンジョンの住民かどうか。くらいです。住民なら、顔を確認して名前を調べることは出来ますが。」
ステータス表示機能なんて便利な物は存在しない。
「それに、分かったとしても証拠が無ければ、お役人に突き出しても無意味です。」
「確かに、海賊が千両箱を持って買い物に来たとしても、盗品という証拠が無いと捕まえることはできませんね。このダンジョンでは小判の細かい形状を記録してありますが、ダンジョン外でどう取引されたかなんて分かりません。」
時代劇では無いので、自ら証拠物件になる遊び人兼奉行なんていない。
「日本駄右衛門を何とかするか、那須塩原を通るかして、奥州中心部との交易を行わない限り、左遷城だけでは限界があります。」
「中心となる街道が白河から延びていますからね。かといって、図書館都市ダンジョンには海賊は寄りつきませんから、那須塩原へ渡す生贄が足りません。」
「あれだけ派手に海賊狩りしたら、海賊も逃げるでしょう。商人にはありがたいことですが。」
この地域に海は無い。元は中国の「白波谷」という地名に由来し、「白浪」から「海賊」になったとも、海賊の方がイメージが良いためとも言う。
「異世界なら、国道4号だけでは無く茨城経由の国道6号もあるのですが、この世界、道が東から東へ延びているため、その先は奥州には繋がっていないようです。」
なお、マリーが良く知っている異世界では、国道7号は千葉、8号は甲府、9号は高崎・前橋へ向かう。
「図書頭様、やはり、奥州方面は後回しにせざるを得ませんか。」
「あの殿様商売の那須塩原を何とかしない限り、船1隻ごとに生贄なんて困難です。日本駄右衛門の掃討方法はいろいろ検討していますが、現状では困難ですね。完全武装したウサギ部隊を投入するか、誤爆覚悟で地域ごと焼き払うか。いずれにせよ時間が必要です。」