309:毛の国にて
【毛の国との交易拠点・箱田】
毛の国の中心、総社は、異世界群馬県の影響か、東に前橋・南に高崎という町がある。そして、総社と前橋の間を抜けて図書館都市ダンジョンの影響圏が遥か越の国まで伸びている途中に、「箱田」と命名された交易拠点がある。
(この先にある巨大アリのダンジョン『真社会塔』は、早いうちに駆除が必要でしょう。ダンジョンから出たら潰れると言っても虫は危険です。さらに先の『魔の山谷川』は、転送陣によって街道が廃れたら、おそらく十年と持たず自壊すると思われますから、放置で良いでしょう。)
マリーがそんなことを考えていると、群馬郡司、高橋対馬守がやってきた。高齢の雌狸。この世界、狐狸が化けるにはダンジョンの力が必要であり、図書館都市ダンジョン所属では無い対馬守は二足歩行する狸の姿。
「お久しぶりです。鶏頭がケイトウでは無くニワトリの頭だったとは。」
マリーはそう言うと、箱に入れたニワトリの頭を渡す。胴の方はフライドチキンにされウサギカフェ行き。
「ありがとうね。」
マリーは修羅用液肥、対馬守は鶏頭を食べながら会談。
「まず、転送陣の地図をお渡しします。宇都宮城へ急ぐ時には役に立つかもしれません。」
「毛の国にはダンジョンに頼らず飛行可能な鳥人も居るが、飛ぶのは大変だから助かる。吾妻郡には行けないのかな。」
「既存の村より向こうには、影響圏自体を拡張できません。村が移転したり衰退したら別ですが。」
「小山城や金山城の近くには行けないのでしょうか。」
「転送陣もタダではありませんので、追加で作る場合、契約を結んで利用にかかわらず一定の費用を戴くことになります。それに、金山城は影響圏の端から少し離れていますから結局歩く必要があり、少し効果が薄いと思われます。」
「そこまでする必要があるか。か。一応、国主様に報告はします。」
「次に、近隣諸国、科の小県郡、越の魚沼郡まで転送陣を作りました。他の方向は影響圏の端まで山や荒れ地ばかりですね。那須塩原が奥州以外にも航路を持っているのは間違いありませんが、どこに行くかは、まだ突き止めていません。」
「毛の北なら……奥州……あれ。」
「異世界と必ずしも地理は対応していませんので、わたしも何とも言えません。真北にある転送陣の端から周囲10里や20里には何も無さそうです。」
「那須塩原の向こうは確認出来ないのですね。」
「はい。他のダンジョンがあると影響圏を拡張できません。迂回して、というのも、今のところ上手く行っていません。」
「おそらく直径150里はあるので、迂回するのも大変でしょう。」
「しかも、船1隻ごとに生贄1人要求されますからね。わたしは歩いて横断するなら別に通行料は取っていないのですが。」