308:中山グランプリに向けて
【総国境・市川橋】
「次に、今回の本題、だいぶ衰退している『中山競馬場』ダンジョンの扱いです。」
「水が得られるので野菜畑にしているが、日常的に農民が立ち入っているにもかかわらず、年々収穫が落ちている。本来は農場ダンジョンでは無い。というのは聞いているが。」
「相撲をするための土俵のように、競馬をするための場所が競馬場です。ですから、競馬を行うことで最も効率的にダンジョンに力を与えることができます。もちろん、長期的には生贄が必要ですが、あの規模なら、ごく希に誰かが厠で自害すれば十分です。」
「厠? しかし、あまり畑を減らすわけにもいかぬ。」
「それは大丈夫です。今、畑があるのはダンジョン本体の中だけですが、まず、大きな建物が建っている前の部分から、真っ直ぐ南方向へダンジョンの外、影響圏の端まで10町ほどの土地を確保します。今年は砂のみ、来年か再来年には芝も用意します。それ以外はダンジョンが元気になってから何年かかけて徐々に畑を移動させていけば良いでしょう。」
「しかし、競馬で、そんなにダンジョンに力を与えられるかな。」
「上総介様、単に普通の馬や馬脚を競争させるのではなく、それなりの賞金を出して国を代表する名馬や召し抱えられた馬脚などを呼んで盛大に開催すれば良いでしょう。1着賞金はわたしが5,000両出します。」
「そんなに出すのか。」
「勝つのは、わたしの家臣ですから、8割の4,000両は帰って来ます。」
「そうまで言われては、名馬の産地として黙ってはいられないな。馬脚では無く動物の馬だが、古くから総は名馬の産地として知られている。」
異世界でも古くから半分野生化した馬が放牧されており、成田飛行場(伊藤飛行機が開設したパイロット養成用飛行場)からの遊覧飛行では御料牧場の馬を見ることも出来る。
「実際の所、最速の馬と最速の馬脚って、どちらが速いのでしょうね。馬の方が脚は倍あるとは言ってもだいぶ体重も重いですし。」
「乗り手の目方の影響は馬脚の方が大きいと思うぞ。」
「馬脚は当然、騎手が居なくても全力疾走できますから、いっそ馬脚は乗り手無しというのも……。」
「図書頭どの、条件を揃えるために、乗り手は必要だと思う。」
しかし、乗りこなすのに高い技量を要する悍馬と異なり、馬脚に「載せて貰う」だけなら騎乗技術はあまり要らない。という問題には、マリーも上総介も気付いていなかった。
【第三層群屋上展望台】
「マリーさん、ダートの直千なんて中山グランプリではないと思うが。」
「『グランプリ』って外来語もこの地方では意味が通じないでしょうし、名称は何か工夫すれば良いと思います。」




