306:コレジヨ(坊主養成学校)
【見沼の岸辺】
「……と、丹沢ヒルズの天狗は言っていました。」
「びしょふ? ああ、ビスポですね。それは、こちらからも頼まなければならないことです。」
パードレのアントニオ・アウグスト・サントス・ペレイラは姿勢を正してマリーに頭を下げて言う。
「図書頭様。我々河童の未来のためにも、失われたセミナリオとコレジヨ、つまり僧侶を養成する学校を再開する許可を戴きたい。」
河童の小坊主はセミナリオで勉強し、卒業後さらにコレジヨで学ぶことで一人前の坊主になる。
「え~と、僧侶の養成学校……要するに『檀林』ですね。内道用には、ダンジョン北東、筑波から続く山の上に、宗派を問わない僧侶育成の場を用意しているところです。わたしは外道(仏教以外)のことはよく分かりませんが、河童社会にも僧侶は必要でしょうね。」
「はい。ですが、この地の河童も、ビスポは皆高齢で数も少ない。奥州の北の方にも河童は居るが、そちらには、どうやら既にビスポは居ない模様だ。」
「僧正が居ないとどうなるのです。」
「ビスポが居なくなるとパードレを叙任できなくなってしまう。そうなると、いずれ結婚も葬儀もできなくなってしまう。即急に人材を育成し、次の世代のビスポを養成しないといけない。」
「グリーンランドの崩壊みたいですね。司教がいなくなり司祭を任命できなくなって社会が崩壊したという。」
「そのグリーなんとかは知らないが、とても悲しい末路だな。」
極端な生産力の乏しさも原因。余力がある社会なら「正式な僧侶が居ないから誰も結婚しない」とはならない。
「図書館都市ダンジョンでは邪道と無道は禁止です。邪教は間違った道徳を信じ、無神論者には道徳自体が無く、共に社会に有害ですから。ですが、河童の皆さんは外道(仏教以外、六道輪廻に含まれない妖怪の両方の意味がある)ではあっても別に邪教の類でもありませんし、許可しないということはありません。」
狐狸や龍は六道輪廻に含まれる。
「ありがとうございます。」
「建物を異世界から召喚することと、河童だけで無く天狗も通うことから、学校は河童村の陸上にしましょう。それに、水に漬けると建物が傷みますし。」
「ならば、村を見下ろす丘の上が良いです。」
「はい。土地は貸与します。建物に関しては、適当な高等女学校でも召喚して譲渡することはできますが、それ以上のことは河童の皆さんご自身でお願いします。ダンジョンの仕様として公的な図書館しか複製召喚出来ませんから、祭具も神道(官立大学がある)以外は入手できません。」
ダンジョンの土地は全てダンジョンの物であり、国人も自作農も寺社も土地を知行や布施等として任される・貰うことで領有・所有・管理できる。このため、もし不受不施派が居たら寺院を建てられない。それどころか水も飲めなくなってしまう。
「それはこちらで準備します。」
「その学校で、聖女を大量に育成する。というわけですね。」
「いえ、聖人というものは死後何十年も掛けて審査した上に認定されるものなので、生きている聖女というものは決して存在しません。また、ビスポといえども、勝手に聖人を認定する権限はありません。」
「そういうものですか。」
「また、セミナリオもコレジヨも男子校となります。河童も天狗も男女がいる生物ですが、最初からパードレは独身の男性と決まっています。別に男女のどちらが偉いとかは無く、信仰上の決まりです。」
「え、男子校なのですか。……確かに、考えて見ればそうですね。」
仏教では僧侶は男女とも居る。また、この世界では六道のうち修羅のかなり多くと畜生の一部は雌雄同体だったり性転換する。餓鬼には基本的に性別は存在しない。
【ダンジョン南東方向・河童村】
「わたしにできるのはここまでですね。」
湖の畔、小高い丘の上に、異世界の中学校を複製召喚した校舎や講堂、体育館、学生寮(本来は遠方から通う学生用だが、この学校は全寮制となる)などが並んでいる。
「ありがとうございます。ようやっと学校の再開がかないました。」
「装飾や備品に関してはわたしには分かりませんし図書館の備品として召喚することも出来ませんから、用意出来ません。講堂にご本尊を安置する訳では無いでしょうし。」
「十分です。まずコレジヨが機能し、ビスポの選出が可能となることが最優先です。見た目は後回しでかまいません。正式には選出までであって、認証は出来ませんが、それは仕方ありません。学校も新設には認可が必要ですから、増やすことは現状出来ませんが、当面問題は無いでしょう。」




