304:地方視察の第一歩
【武蔵国境・枇杷橋】
数日後、マリーはダンジョン西、入間との境になっている枇杷橋を訪れた。
「いやぁ、これはこれは図書頭どの、お元気そうで何よりです。一時はどうなることかと。」
「代官どのもお変わりなく。早速ですが、先日お知らせしたように、この地図で示した範囲は、いずれ水没しますので、誰かが溺れたりしないよう配慮をお願いします。」
「ああ、西側の新しい湖か。でも、いくつかの村の目の前まで湖になるから、勝手に水を汲む者が出そうだ。」
「武蔵の村が生活用水を汲む程度は誤差ですから、見なかったことにします。風車でも建てて大々的に畑で使うとかだと、お金を戴かないといけませんが。」
「今のところそういう予定は無いが、お金で済むなら早い。だいたいダンジョンってものは話自体が出来ないか、出来ても生贄を要求する。都合良く罪人が居るとは限らないのにお構いなしだ。」
「確かにダンジョンには基本的に生贄が必須ですからね。小さいダンジョンならば生贄無しでも存続は出来ますし、今の図書館都市ダンジョンみたいに何十万人も住んでいれば、寿命を待てば良いのですが。」
「入間郡にはダンジョン自体が無いが、小さいダンジョンでも生贄を要求してくる。というのはよく聞くが。」
「ダンジョンの成長のため、ダンジョンマスターなどが良い生活をするため、単に効率の問題。理由はいろいろ考えられますね。図書館都市ダンジョンも、海賊の火炙りで第二層群……2つめの建物を召喚し、そこから成長して今に至ります。」
「ずいぶん昔に思えるが、まだ2年経っていないな。」
「この秋でダンジョンが誕生して2年ですね。次の新年でわたしは4歳になります。」(数え年なので)
「足立でダンジョンが見つかった。と聞いたとき、まさかこうなるとは想像もしていなかったな。燃料用の紙が得られるから貴重な薪を節約出来る。程度の認識だった。」
「あと、生活用水は湖から汲んでもかまいませんが、水道は枇杷橋まで、つまりダンジョン影響圏内しか作ることができませんから、飲み水は桶か何かで運んで下さい。湖の水を飲んでお腹を壊しても、責任は取れません。」
「さすがに湖の水を直接飲む者は居ないだろうが、一応周知しておこう。」
「いずれは魚を放して漁業もしたいですが、生きた魚ってなかなか居ませんからね。」
「この国にいる魚は金魚と鯉くらいだな。かといって、総の飯沼にあるダンジョンは塩水の上に、魚はダンジョンの外では生きられない。」
「ダンジョンモンスターですからね。厳密には生き物ではありません。」