300:進むべき道
【第三層群屋上展望台】
大規模で多数の住民を抱えたダンジョンの存続に必要なのは「人間牧場で飼っている家畜から最大の感情エネルギーを搾り取る」事である。図書館都市ダンジョンの運営理念は「物心共に健康で豊かな生活を実現する」で、意味するところは同じ。
「結局、大規模な工場群が必要。ということですね。農機具・農薬・自動車・飛行機など。」
「このダンジョンが異世界から複製召喚出来る物は図書館の備品だけで、当然、偏っているからな。図書館付き複合施設は召喚出来ても、そちらの中身は付いてこない。」
召喚出来るのは印刷された本など量産品のみ。累計発行部数が1つの異世界で数十億冊ともなるとタダみたいな召喚コストで入手出来る。
「そして、機械を生産するには工作機械と原料が必要。鉄なら鉄骨造りの体育館を召喚して……って昨日言った方法も可能ですが、工作精度やダンジョンエネルギーの問題もあります。」
「鉱石を探す方が早いかな。」
「この世界では、鉱石でも金属でも、いずれにせよダンジョン産となりますから、どちらが容易かは場合によるでしょう。もちろん、機械を直接産するダンジョンがあれば早いですが、過剰な期待は出来ません。」
「むしろ、そう言うダンジョンは直接的な脅威になるのでは?」
「確かにそうですね。仮に技術水準が前世紀であっても、戦車や爆撃機は、ドラゴンや巨大蟻みたいに自重で潰れたりはしませんからね。戦車なら穴に埋めることも可能でしょうが、爆撃機を落とす方法ですか……。」
「ダンジョン外で飛行可能な鳥人は少ないからな。対策。というのも必要無かった。」
「天狗でも五位鷺でも何でも、ダンジョン側の飛行生物の方が圧倒的に有利ですからね。でも、機械には通用しませんから、爆撃機を落とす方法は考えておくべきでしょう。」
「邀撃機か高射砲か。このダンジョンには魔法は無いからな。」
「つまり、まず為すべき事、は、農業では引き続き田畑の拡充、工業では機械・人材含め工場の準備。そして影響圏外に対しては、有用な資源を産するダンジョンの探査……の前提として、ウサギに必要な兵器の生産。ですね。小銃などは武士団にも配備しましょう。」
「それで、ようやっと限定的とはいえ、外征が可能になる訳か。」
さすがに国民軍はこの世界には早すぎる。秩禄処分なんか行ったら一揆間違い無し。わたしには明治維新は到底無理でしょうね。と思うマリー。
「はい。近隣諸国との直接戦闘までは考えませんが、海賊団程度は討伐出来ないと交易ができません。準備と訓練が終われば、最初に『日本駄右衛門』を血祭りに上げるとします。可能なら生け捕りにした方が良いですが。」
「ダンジョン外で倒しても利点が無いからな。」
「近隣の平定が終われば、域外に道路を建設し、本格的に交易とダンジョン探しを進めます。出来れば、秋の収穫が終わって少し暇な間に、冒険者を多数雇って捜索を行いたいですが、間に合わなければ来年です。」
(第十六章・完)




