294:あらためて転送陣を再検討、再々々検討?する
【第三層群屋上展望台】
「越前屋さんに、ダンジョン端までの交通機関の改善を約束しましたが、どうしたものでしょう。」
世界樹の根元にだらしなく寝転がったマリーが言う。大領主に見合う威厳なんてゼロ。もっとも第三層群上部にはダンジョンの固有法則「部外者立入禁止」により、ダンジョンモンスターと眷属以外は立ち入りできないため、別に醜聞が広まったりもしない。
「転送陣は高く付くからな。」
「異世界でもリニアモーターは特殊なビルのエレベーターであり、高速移動には使われませんからね。東京市営地下鉄の環状線など、地下鉄に使った例は少数ありますが。」
「でも、飛行機は存在すらしない、自動車は今の技術水準では無茶が効かない。という問題がある。」
「1,000km、となると、異世界でも飛行機か船の二択ですからね。飛行機はありませんし、ダンジョン影響圏の端まで運河を掘るのも無茶です。」
「地形の制約か。」
「地形だけではありません。例えば、西の入間川や東の太日川を堰き止めて運河にすれば輸送はだいぶ楽になりますが、よその村を沈める訳にもいきません。」
「悪いダンジョンなら、それくらい平気でしそうだけど、確実に戦争になるだろうな。」
「庇護者が居ない孤立した村をこっそり陥れて無人化させるのとは違いますからね。この世界、後ろ盾が無い者には人権もありませんが、逆に領民が不当に扱われているのに放任する領主はそれだけで統治の正統性を疑われ、主君押込の対象ともなり得ます。幕府は無いので転封されたりはしないようですが。」
人口密度の低い砂漠ゆえに、特定の国に属さない村もあるが、そういう村は街道が消え水が消えても誰にも助けて貰えない。逆に国に従う義務も無い。
「それで、改めて転送陣の特徴だけど……。」
「結局、他に選択肢が無いんですよね。ダンジョンそのものの機能なので故障しない。というのも利点ですし。」
「砂漠で車が故障がしたら、最悪命に関わるからな。」
「利点は、飛行機より遅いとは言え、それなりに早いこと。欠点は、異様にエネルギーが必要なことですね。早いため空気抵抗により消費エネルギーが多いため、つまり因果関係ですが。」
「かといって遅くしても解決しない。だったな。」
「浮くためのエネルギーは必要ですからね。上下方向ではしかたありませんが、水平方向では全くの無駄です。」
「上下方向も、工事用エレベーターみたいに歯車を使用したりは出来ないのか。」
「ラック式は速度が制約されます。このダンジョンの各層群内に最初からあるエレベーターは、ほぼ全てロープと重りを使用したトラクション式です。もちろん、長さ100kmのワイヤーロープなど自重が重すぎてエレベーターでは使い物になりません。」
リニアモーター式エレベーターの利点は高速、複数の籠によるエレベーターシャフトの共用、三次元方向の移動だが、普通の建物では過剰性能。




