293:ダンジョン域外交易の安全確保
【第34層群・メインエントランス】
「そして、ダンジョン影響圏の端からダンジョン外にある町までの移動の問題。ダンジョン構造物は使用できませんから、転送陣はもちろん、道路だって砂利道がせいぜい。ですが、最大の問題はダンジョン影響圏外では治安が維持出来ないことです。」
ダンジョン影響圏内なら、悪い奴を落とし穴に埋めてしまうのは容易。
「護衛の冒険者が多数必要だな。」
「普通の海賊程度なら冒険者で十分ですが、例えば左遷城の北に出没する『日本駄右衛門』一味はかなりの人数が居るようです。さらに、ほかの城主などが隊商を襲撃した場合は対応不可能ですから、あまり影響圏を離れることは推奨できません。」
「異世界の産物は使えないのかい。」
「順次開発は進めていますが、今は無理ですね。武器は図書館の備品では無いため直接複製召喚により入手するのは不可能です。」
既にあるのは、この世界にもあるがあまり使われていない火縄銃や、無誘導の多連装ロケット。
「そもそもダンジョンは守りに特化した存在ですから、外征には向きません。このダンジョンには最初から居ませんが、強力な怪物は大抵ダンジョン外では使い物になりません。」
龍は飛べないどころか自重で潰れる。狐狸や河童も、固有法則が対応したダンジョン以外では大幅に弱体化し、ダンジョン外では一切の特殊能力を使用できない。一方、このダンジョンには最初から特殊能力なんかに頼らないウサギが居るが、歩兵銃や機関銃が量産化出来ていないこともあり、まだ活躍は出来ていない。
「こちらから行くのが危険なら、域外の商人を呼び寄せれば良いんじゃ無いっすか。」
若い商人が言う。
「海賊の危険という点では同じ事です。ですが、影響圏の端に常設の市を置くのは良い案ですね。それに、『日本駄右衛門』がダンジョンの危険性に気付かず攻めてくれば返り討ちに出来ます。」
「もし来なければ?」
「あくまでも理論上は、近代兵器が生産出来れば、ダンジョンから外征して海賊退治、あるいは不埒な領主を成敗だって可能ですが、影響圏外で敵を倒してもダンジョンには意味はありません。
「ああ、得にならぬと。それは仕方ないな。」
「ならば、領主様は、海賊を放置するのですか。」
「放置とは言っていませんが、ただ……。」
「本来、日本駄右衛門の討伐は、父島弾正忠様の責務。利益にならぬ人助けは長く続けることが出来ない。今後、域外の海賊退治を全部図書頭様に頼むわけにも行かぬ。海賊退治が直接ダンジョンの収入になる『仕組み』が無いか考えるのが政治だ。」
三方一両損では落語にしかならない。
「あるいは、誘引して罠に嵌めるか、費用を掛けずに海賊を無力化するか。ですね。ですが、根本は海賊の発生原因を解消しないといけません。『石川や浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ』とは言いますが、ならば砂浜を全部畑にでもして片付けてしまえば良いわけです。」




