285:埼玉県民は麦を食え……ない!?
【コアルーム】
「左遷城ヘの隊商は無事出発、麦も収穫、暴走により勝手に増えた層群の掌握も完了。考えて見れば、ダンジョンをきちんと掌握していないと、ダンジョン内で動くことが出来ないのも当然ですね。……ですが、やはり次々問題は出てきます。」
壁に投影された地図を見ながら言うマリー。
「今度は何か。」
「現在、麦の収穫が進んでいますが、人間の主食である大麦の人口支持力が、どうも理論通りには行きません。」
「それは厄介だな。人間が一番多いわけだし。」
「江戸時代の埼玉では米は換金用で主食は大麦。小麦も併用していました。この世界でも水が貴重なため、米は桶で栽培するかダンジョンから入手する高級品で通貨として流通、人間は雑穀や芋を食べています。このため、麦を主食と考えていたのですが、麦は種を多く確保しなければなりませんし、労力を多く要する割に収量も予想より少なくなっています。」
「でも、ヨーロッパは小麦が主食だろ。」
「ヨーロッパは輪作を行い、家畜前提ですから、麦単体で換算すると面積当たりの『人口支持力』は低くなります。ヨーロッパでは家畜は単に畑を耕すだけではなく、食生活にも不可欠な存在ですが、この地域には家畜はほとんど居ません。」
「なら、家畜を殖やすか。」
「家畜はダンジョンエネルギーを生み出しませんから、安価とは言えコストの掛かる水を家畜に廻すのはダンジョン経営的には好ましくありません。また、牧草地への散水は雨が好ましく、ダンジョンから水路で田畑や果樹園・植林地に水を引き、使用後に見沼に落とす。という方法とは相性が良くありません。あまり牧草地が多いとヴァサンティが過労死してしまいます。」
「なら、獣人は……?」
「食用になりませんからね。家畜の代用には限界があります。屈強な美濃牛は畑を耕すことは出来ても、牛肉にはなりません。それに、この付近は元々家畜が少ない地域です。砂漠ですから、あまり家畜を飼う余裕はありませんし、異世界の影響もあるでしょう。」
「異世界か。」
「トラクター普及以前、概ね滋賀・三重以西の西日本は牛、新潟・岐阜・長野以東の東日本と九州は馬、福井~富山と愛知~埼玉は人が田畑を耕していました(つまり九州は牛馬を併用)。このため、この付近では家畜は少なくなります。」
「それで、麦が不足すると言うことは、本来換金用の米を食用に廻すことになり、経済に悪影響が出ると?」
「はい。米は経済力そのものですから。対策として、食べる以上に米の生産を増やすという手も考えられますが、水田の拡大に加え、農機具の生産が必要になります。もちろん図書館の備品にはありませんから、いろいろな部品とダンジョン構造物で組み立てないといけません。」
「それで『田植機競争』か。」
「図書館に資料はあっても現物がありませんからね。『ホームセンターダンジョン』なら、こういう場合強いのですが。」
ちなみに、修羅の食事は液肥。代用品は野菜ジュース。もっと簡易的にはそこらへんの草である。




