278:西側諸国
【第三層群屋上庭園】
「それで、西側はどこを調査するのか。」
「まず、南西の予定は視界内なので調査は不要です。武蔵の府中、相撲の本郷、さらに『箱根八里』ダンジョンを避けて、その向こうの湯の国・三島の西まで。湯から西の鳥兜方面へは街道が延びていますから、そこに接続し町を作ります。」
「するく? なんだそれは。」
「縄文時代の言葉でトリカブトですね。アイヌ語でもスルクですが、アイヌは縄文人の子孫なので繋がりがあります。つまり、キンポウゲ科の勢力圏なのでしょう。イメージ的には国道1号や伊勢高速道路といった感じでしょう。もちろん名古屋や伊勢までは行きませんが。」
第二次世界大戦が無かった異世界では、国道1号は東京~伊勢。
「一方、北西は毛の総社から、越の国まで。影響圏は魚沼郡に食い込んで道をいくつか横断していますから、気球で町の位置を確認し、どこかで接続します。こちらも『魔の山谷川』ダンジョンが街道上に居座っていますから、迂回できる効果は大きいでしょう。」
「サド金山もそっちの方向だったかな。」
「はい。ですが、さらに相当遠くの模様です。国道9号、新潟高速道路ですね。」
もちろん、新潟へ向かう国道のこと。
「最期に西ですが、甲の北、美濃尾張方面を探る国道8号もどきか、地図では科の中心に近いと思われる西北西方向、こちらは転送陣も無い方向ですが、こちらを調査するか、決めていません。毛の西側、碓氷へ伸ばす国道10号もどきは中途半端になるのでやめておきます。」
異世界と地形はだいぶ異なる。また、ダンジョン影響圏は一直線に広がるため、転送陣も影響圏に沿って直線にしか伸ばせない。
「いっそ両方を調べるという手もあるな。どちらか使いやすい方に街道を作れば良い。」
「使わない転送陣は無駄になりますが、仕方ありませんね。偵察衛星があれば良いのですが。」
「技術的に敷居が高いな。」
「もっとずっと単純に、ダンジョン構造物でエレベーター付きの、埼玉タワーくらいの塔を作って、その上から撮影する。という方法もありますが……。」
「それだと視界はどの程度になるんだ。」
「地形を考慮しなければ90km前後ですね。ただ、影響圏の端の方は山地が多いですから、埼玉タワーより高い山であっても視界はあまり開けません。もっとも、実際に影響圏の端まで道路を引いて関所を作る場合、関所の安全を確保するためにも、何らかの方法で常時警戒する必要はあると思われます。そもそも影響圏の端は、斜めに大気層を透過する必要があるため、ここからでは良く見えません。」




