275:左遷城
【奥州・謎の城】
「町だな。」
単独行動している冒険者、吉之助が地図を逆さに見ながら言う。地図をきちんと見ずに着いたのは大したもの。
「往来手形はあるが、果たして通用するか。」
城下町の入り口に番所はあるが、図書館都市ダンジョンが影響圏の端に置いている関所のような厳重な物では無く、番人すら居ない。
城下には手入れの行き届かない侍屋敷が並ぶ。左手(北)に城があるようだが、一介の冒険者風情が訪問できる訳も無い。
しばらく東へ進むと丁字路があり、南北に延びる道に沿って商家が並んでいるが、人通りも少なく、いわば「半分はシャッター街で一部は駐車場」とでも言うべき状況。正面右手に呉服屋、ほか酒屋・米屋などが点在する。
町屋は南北に長さ6町ほどあり、北から1/3の場所に、東に高札場、西に城の追手門がある。
吉之助は適当な食道に入り、手持ちの銭が通用することを確認した後、酒と料理を注文、料理が届くと店主に書状を渡す。マリーが印刷して冒険者達に渡したもの。
「紫蘇図書頭様って殿様が、ご領地の経世済民のため、各地で足りない物、余っている物を調べさせている。」
「この左遷城には何も無いよ。何も。昔は南の東に行く街道があったけど、東は滅びてしまった。」
南にある東とは。
「それと、旅のお方、この左遷城には4つの城がある。ここの松永隠岐守様は、ご禁制の品でも扱われるから、図書頭様が連座しないよう気をつけるくらいだ。でも、北の父島弾正忠様のご城下には高価な物や金銭は持ち込まない方が良い。東の高井六位蔵人様の城下は、男は良いが女は行かぬ方が良い。南の天王寺摂津大夫様……。」
【第三層群コアルーム】
「マスター、冒険者達が次々探索から戻ってきました。今報告が上がってきました。」
「それで、町の状態は。」
「名前は『左遷城』、人口はおそらく1万足らずとかなり多い模様です。」
「左遷?」
「はい。200年前に滅びた平塚と旗之台の間にある廃ダンジョンが大都市だった時代、西の方に『出世城』、北東の方に『左遷城』が置かれたとのことです。」
「奥端営業所勤務を命ず。みたいなものか。豊原ならまだしも。」
異世界日本最北の市。東京からの距離なら台北と大差無くヤルートの半分だが、名前と気候から左遷の地として悪い意味で有名。
「地図は不正確ですが、4つの城があるとのことです。北側は『日本駄右衛門』と名乗る盗賊が横行しており、庶民はともかく商人には危険です。」
「可能なら、捕まえて那須塩原の生贄にした方が良いな。」
「東側は城主自身が強淫大名として知られています。男色家では無いので男の商人だけ行かせれば良いでしょう。」
「これも茄子の餌にした方が世のためか。」
「西側は密貿易を生業としていましたが、交易路の途絶で苦しんでいます。士分の正式な使者を送るべきでしょう。ただ、阿片など害のある商品を持ち込まないよう注意は必要です。」
「まず籠絡すべき相手か。」
「南側は越権行為を常とするとのことです。統一権力の無いこの地域で、何が越権行為なのか怪しいですが。」
「このダンジョンには関係無い話だな。」




