272:調査隊出発
【第三層群屋上展望台】
「それで、越前屋さんは冒険者による偵察を省いて、いきなり隊商を派遣するというのか。」
「いえ、まず冒険者による先遣隊を派遣し、その結果に基づいて商人と商品を集め、護衛の冒険者を伴った隊商、馬幇と言うそうですが、それを編成する。とのことです。出来れば本格的な夏が来る前に1回試験的に奥州へ行き、秋に本格的に隊商を送り込む。とのことです。」
「魔法といってもすぐには出来ないか。」
「はい。それと、転送陣は早いですが高く付くので、隊商を準備している間に『新幹線』を用意して欲しい。とのことです。転送陣の設置・運用コストを小判換算すると、1人10両くらいは必要になりますから。」
ものすごくざっくり計算して100万円くらいか。
「高いな。物価としてどうなんだろう。」
「確かに割高ですが、異世界では江戸から大坂まで最速の飛脚が3~4日で5両や10両でしたから、その倍の距離を3時間以下と考えれば格安でしょう。それに、飛行機は製造に何年もかかると思われます。」
「確かに飛行機は待てないな。でも、奥州に鉄道なんか作っても全く無駄だろ。」
「作るとしてもダンジョン内だけですね。そもそもダンジョン影響圏外だと、今の技術では車軸が折れます。ちゃんとした鉄を作るには原子炉と製鉄所が必要で、原料として大量の鉄鉱石といくらかのトリウムが必要になります。」
「また敷居が高いな。」
「あらゆる産業で、俗に言う『服を買いに行くための服が無い』という状況に陥っているのが現状です。わたしの場合、ダンジョンの機能で服を取り寄せる事は可能ですが、工場の機械はこのダンジョンでは入手出来ません。」
この世界、布はかなり高価であり、一般住民から見たらとんでもない話。このためマリーは贈答や下賜に衣類を多用している。
【那須塩原東方、図書館都市ダンジョン影響圏端】
転送陣で連れてこられた何組かの冒険者達が集まっている。
「磁石の使い方、地図の見方は覚えましたか。」
画面越しにマリーが冒険者達に説明する。ミントの分身が前払い金を渡し、冒険者達はダンジョン影響圏から出ていく。さすがにダンジョン内でミントの分身を遅うような不心得者は居ないし、個々の冒険者に渡される前払い金など大した額では無い。
「町なんか探さなくても、未知のダンジョンでも見つけたら、お宝は独り占めだろ。」
「おいおい、それでは任務失敗ではないか。」
「かまわぬ。町に到達出来なくても前払い分は貰える。それに、町に行って言葉が通じるとは限らないぞ。最悪、妖怪変化と思われて斬られるかもしれない。」
「奥州って言葉が通じないのか。」
「その危険はある。せっかく、誰も行ったことの無い遠い土地まで来たんだ。町よりダンジョンの方が見つけたら美味しい。」
越前屋が手配した冒険者は真面目に町へ向かったが、中には、全く仕事をするつもりのない冒険者も居る。




