027:三度目の襲撃……太郎襲来
※R-18G描写は省略していますが、賊が処刑されますので、ご注意ください。
【コアルーム】
「前回逃げた賊が仲間を呼んだようですね。人数は推定20程度、前回と同じです。ただし騎馬1。襲撃間隔から見て、彼らの根拠地はせいぜい3から5日行程といったところです。」
「馬頭では無い馬もちゃんと実在したんだな。」
【丘の中腹】
「弟が大地に呑まれたのはここか。」
騎馬の賊は、明らかに男だが服装は女。
「はい。」
「これ以上進むのは危険だな。ここに罠があると言うことは、罠を動作させるため間者が潜んでいるはず。いったん引き返し、別の道を行く。」
賊は丘を降りて、丘の廻りを一周する。
「丘に登る道は3本で、最初のが大手か。むろん、道など無視しても良いが……おや、この道、ここまではただの道だが、この先は地面が固くなっておる。さては、ここが罠だな。この比企右衛門尉を謀るか。」
「太郎様、道から逸れますか?」
「いや、当然道の両側にも仕掛けがあるはずだ。我が比企氏はヒキガエルの子孫にして、ガマガエルの子孫である筑波氏とともに名門。小汚い小山下野介みたいな成り上がり者とは違う。この程度の児戯にも等しい罠など容易に見破ることが出来る。」
無意識に、見事に罠に掛かった弟の悪口を言ってしまう右衛門尉。
「どうしますか。」
「この道が中心で、向きが麓の寂れた街道と概ね一致すると言うことは、この方向と交通があると言うこと。他は街道の反対側に続く道と、街道が無い側の荒野に抜ける道だ。丘の麓に根城を置いて、旅人を襲えば良い。新しい入植地である以上、自給自足は不可能。……と言いたいところだが、食糧が足りないな。」
「太郎様、引き返すにも食糧は明日の分までで、足りませぬ。」
「馬を連れてきたのが悪かったか。さて、使者を立てて降伏勧告する、と言った所で、使者が死者になりかねないし、ここで野営などしては『ボク死にたいの。夜討ちしてね』と言っているようなもの。」
夜討ちする戦力がない、なんて事情は知らない。
「そして、あの塔は『ダンジョン』の可能性が高い。と。」
「それが一番の問題だ。ダンジョンの壁は壊せないからな。さすがにダンジョンに元からの扉なんか無いから、扉を壊す手は使えるが。一番良いのは、塔の廻りの畑を全部食い荒らすことで塔の連中を怒らせて釣り出し、扉が開いたところで突入することだが……。」
「当然あの塔は見張り台を兼ねているでしょうし、相手にはこちらの動きが丸見え。さすがに畑の周り全部に罠は無いだろうが。」
【コアルーム】
「賊のくせに慎重ですね。このまま夜になったら、夜討ちの代わりに拡声器とか、いっそドローンを突っ込ませるとか……ミント、ドローンってあります?」
「無いなぁ。いずれは作りたいが、分冊百科方式の雑誌付録は扱いが難しそうだし、何かをバラして組み立てる方が良さそうだ。」
「かといって、ロケット花火って言っても雑誌の付録に火薬なんてありませんからね……。ダンジョン影響圏内で野営してくれれば、寝ている間に足元を抜くことが出来るのですが、微妙に外に居ますし。」
「賊が歩いている真下に穴を開けることは?」
「ダンジョン構造物から外す。なら一瞬ですが、穴を掘るには時間が必要です。道から外れても1人なら電気柵を使えば退治できますが、これだけの数が居ると無理でしょう。」
【丘の中腹】
「野営は危険だ。暗くなる前に決着を付ける。者ども、食糧は全部食べて良いぞ。」
「おう。」
「ただし、持ってきた縄は焼くなよ。中に針金が入っている、このダンジョンを攻略するために使う秘密兵器だ。」
【コアルーム】
「……マリーさん、賊が宴会しているぞ。」
「補給部隊が来ている様子もありませんし、さほど大量の物資を持ってきているとも思えません。わたしの想像を絶する何かがあるのでしょうか。この世界の技術レベルは18世紀程度に見えますが、商都梅田はおそらく20世紀、石の神殿アスカは7世紀、このダンジョンは21世紀。となると、どこかのダンジョンから22世紀の商品が出回っていないとも限りません。」
「厄介だな。」
「正体が分かるなら対策のしようもありますが、どういう道具を持っているか分からないのが問題です。」
【丘の中腹】
「畑の端までは塔からの弓矢は届かぬが、どこに落とし穴があるか分からぬ。だが、落とし穴の大きさは有限だ。
そこで、強度を上げるため、針金を入れ補強した縄を用意してある。まず、互いを縄で結び、万が一誰かが落とし穴に落ちても助けられるようにする。その上で、慎重に進みつつ奴等の畑を踏み荒らす。後は昼の手筈通り。」
「太郎様、柵のようなものがあります。」
「杭にヒモを3本張っただけだな。ヒモが妙なモノで留めてあるが……かまわぬ、ヒモを切ってしまえ。」
【コアルーム】
「思いのほかサルですね。十分に監視して……ミント、通電!」
青白い火花が飛んだかと思うと、賊達はバタバタと倒れた。
「マリーさん、電気柵って……。」
「高圧受電用の電線を持ってきて、世界のコアから引いてきた6600Vの高圧電流を直接流しています。電圧は動物用の電気柵と同程度ですが、電流が圧倒的に多いので、十分罠として機能します。元々単独の間諜を仕留めるために準備した物ですが、こんなに有効とは。」
後方で騎乗していた比企右衛門尉は驚いて頭から落馬し運悪く首を折って落命。馬はどこかへ走り去っていった。
「敵、全滅です。」
「そのようですね。結局賊の正体は分からないままですか。」
比企右衛門尉太郎が名乗る機会が無かっただけ。
なお、電気柵は電流が多いと100Vでも危険です。農業用の電気柵は高電圧小電流により不快な電気ショックのみを与えるように設計されています。このため、鹿や猪を退治することは出来ません。
【図書館ダンジョン近郊】
ダンジョン側が賊の姓名を知る機会が無かったが首がほぼ無傷で手に入ったため、太郎の首は街道横に梟首(さらし首)された。
異世界にも比企余一兵衛尉という女装した比企氏が居ましたが、こちらの比企氏は藤原氏の一族であり、ヒキガエルをトーテムとした古代氏族ではありません。




