268:今為すべき事(外交編)
【第三層群屋上展望台】
「最期になりますが、近隣諸国との安定的関係の構築に関して。現在、関八州には4つの国があります。武蔵・総・毛・相撲。」
「それは当然知っている。」
「武蔵との関係は良好、総とも概ね良好、毛は勢力により様々、相撲は直接隣接しないためか中立。となっています。粟は総に従属していますが安定せず、東は事実上崩壊し過半が無人化しています。」
「それで、廃墟になった東の北半分をダンジョン影響圏に組み込んで、将来もう1つ町を作ると。」
「飛行機無しでは遠すぎますから、まだ先になりますが。さすがに転送陣(層群間エレベーター)は日常的に使うにはダンジョンエネルギーを使いすぎます。」
「貨物も問題になるな。」
「はい。移動図書館にはあまり大型のトラックは使われていないので、膨大な数のトラックが必要になります。しかも電気自動車では航続距離が足りないので、炭化水素燃料の生産も必要になります。」
「それこそアメリカみたいに貨物列車使うとか。」
「図書館の備品に機関車はありませんから、『作る』しかありません。ですが、作るなら将来のことを考えれば大型トレーラーの方が役に立ちます。現在入手可能な部品とダンジョン構造物を併用する場合、技術的な難易度は高く、それもかなり高くなりますが。」
例えばタイヤはダンジョン構造物では作成できない。鉄道の場合、レールと車輪をどちらもダンジョン構造物にするという手がある。
「現在、武蔵・府中、総・国府台、毛・総社、相撲・本郷及び粟・観音寺は、近隣まで転送陣(層群間エレベーター)で移動可能です。東・府中は織田城裏側でダンジョン影響圏から離れていますし、衰退して重要性も低いので、転送陣はありません。」
「情報は即時に、人間も1~2時間で。か。」
「はい。『知識は力なり』と言います。特にダンジョンは外征が苦手ですから、『予防的先制攻撃』は現実的ではありません。より遠くの情報をより早く入手することで、準備のための時間を確保することができます。」
「そして、そのさらに外側、まず西の甲・科・越ですが、これらの中心部へは距離や方角の問題で転送陣を設置できません。」
「さすがに遠すぎるか。」
「甲は武蔵の村が多い方向なので影響圏自体を広げられません。他の2国は1,000kmよりは遠方で、地図も無いため正確な位置は不明です。」
「塔からは物理的に見えないな。」
「地平線の向こうになりますからね。手前であっても斜めに見るなら空気層が厚すぎて不鮮明になりますが。」
「偵察機とかは使えないのか。」
「人工衛星が無いので通信できませんし、自律制御は手に余ります。影響圏の端近くに通信基地を置き、そこから数十kmかそこらを観察する。程度は可能でしょうが。」
「旅客機すら手が出ないのに。」
「ただ、甲科越は遠いとは言え、一応道は繋がっていますから、移民も来ています。問題は那須塩原より向こうの奥州で、交通は生贄、つまり海賊を捕まえるかどうかに左右され安定しません。そして、現在関八州では海賊は乱獲により枯渇しています。」
「賊なんて居ない方が良いからな。ゼロならそれで基本的には問題無い。」
【第三層群屋上展望台】
「最期に、春の間にわたしの髪を短く刈るか先だけ切るか決めないといけません。」
「それは重要なことなのか。」
「春から夏にかけて(髪が)伸びますが、放置していると夏場に蒸れたり、毛先が枯れてきたりします。人間だと洗って乾かすのに1時間とか2時間とか必要になりますが、幸い修羅はそういうことはありません。しかし、腰まで伸ばしてしまうと邪魔になります。」
絵ではいくらでも長く出来るが、現実には難しい。はたして平安貴族も本当に延ばしていたのか。
「今みたいに第三層群屋上で比企ニートしているなら、伸ばしても問題ないだろうけど。」
「人間よりは髪が伸びるのが早いので、数年で足元まで届いてしまうでしょうね。でも、今年は攻めの姿勢で行きますから。さすがにベリーショートは似合わないでしょうから普通のショートにしてみようかとも思います。もし似合わなくても秋には伸びているでしょうし。」
マリーは肩より長い程度のセミロングまたは背中の中程までのロングを一つ結びにしていることが多い。




