262:ジャガイモとの会談(4)会談終了
【第三層群1階/屋上展望台】
「那須塩原が人間の貨幣経済と距離を置いているのも、不安定な人間社会からの影響を減らすためだ。しかし、完全に人間無しではやっていけない。どうしても生贄が必要になる。」
「ダンジョンの生産力と影響圏の広さが釣り合って居ないからでしょうね。」
内部で養える住民(那須修羅)の数に対して過大な影響圏を持つのが悪い。と思うマリー。
「那須塩原ダンジョンの本質が塩の大地だから、そこは仕方ない。それこそ、このダンジョンは人間を何万も飼っているんだから、もし生贄が不足したら譲ってほしい。」
「それはできませんね。人間牧場は人間を肉として出荷するためではなく、感情を収集するものです。生贄になるために飼育されている人間は感情が不足し、この図書館都市ダンジョンでは収支が合わなくなります。人間には食料が必要で、そのためにはダンジョンで水と肥料を用意する必要がありますから。あるいは、主系列が人間で直接人間用の食事を調達できるダンジョンなら……おそらく収支的にはさらに悪いと思われます。やはり太陽の力は大きいですからね。」
他個体が出荷されても「次はお前だ」を理解出来ない動物だけが家畜化できる。つまり動物は家畜化できても畜生を家畜として飼育すると、逃げたり反逆したりする。それこそ刑務所並みの飼育施設が必要となり、ダンジョンでは到底費用対効果が合わなくなる。
「そういうのを『強欲』って言うんだが。」
「死刑になる悪人を引き渡すことなら可能かもしれませんが、このダンジョンに悪人は沢山いても、実際に罪を犯す者は少ないですからね。」
ダンジョンは影響圏内を監視可能であり、その点ではダンジョンは典型的な監視社会となる。ただし、大抵のダンジョンは内部で冒険者同士が殺し合いをしたところで関知しない。
「残念ながら、那須塩原の煙草は使用できず、生贄の提供も無い。煙草も吸えない場所に長居する意味は無いので、今回はこれで終わりにしたい。」
「今後、何かで協力できることもあるかもしれません。」
「むろん、今後、奥州と交易が必要なら、生贄を用意してくれればいつでも船を用意する。」
「生贄は用意出来ませんが、お土産は何が良いでしょうか。」
「生贄以外に特に必要な物も無いからな。人間や畜生と違って修羅は食品を貰っても無意味だし。」
「そうそう、転送陣を影響圏の端まで伸ばすので、帰りは小倉港の西1里余りまで転送陣で帰ることが出来ます。そこには関所は無いので、転送陣の扉が開いたらそのまま小倉へ向かってください。」
メークイン男爵は従者と転送陣で去って行った。




