026:厚かましい要求。種芋も苗木もヨハネの首も!
【コアルーム】
コアルームでは、ミントが「週刊 カサブランカ級護衛空母をつくる」の付属模型を作っていた。
「これ50隻もあるんでしょう。自室ならともかく、コアルームの本棚に並べるのはやめてくれません?」
「最初の1隻はマリーが作ったんだし、あと49隻増えても同じだろ。」
「本棚は本を並べる場所で……。ミントがそんな暇人だったとは、もっと仕事を増やさないといけませんね。」
「増やしてくれよ。あ、マスター、訪問者。距離2万、おそらく代官一行。」
ミントが監視カメラからの映像を読み上げる。
「だいたい1日距離か。到着は明日だな。いずれは各方面、1日距離に宿場が欲しいな。」
「そこまで影響圏広げるのは大変ですよ。」
【図書館ダンジョン前】
「書記長どの、順調ですな。ずいぶんと建物が大きくなっている。」
代官がやってきた。
「ええ。ですが、まだまだ足りないものがたくさんありますね。種子はある程度入手出来ますが、種芋とか果樹の苗は全く目処が立っていません。なにしろ、このあたりは完全に土が死んでいますから、ダンジョン以外で農業は出来ませんからね。どこかの村が農業をやっている。なんてことも無いですし。」
「え、普通に農業はしているぞ。」
「そうなのですか?」
「確かに土は痩せているから、作物の育ちは良くない。わずかな下肥や堆肥を与え、なんとか生産している状態だ。」
「こんな土で。大変でしょう。」
さんざん大騒ぎして、植物園ダンジョンを探して襲撃するとか言っていたのは何だったんだ。
「ここの野菜はよく育っているな。」
「コマツナやホウレン草は既に収穫可能です。もうすぐチンゲンサイやカブも。夏にはトマトやカボチャやトウモロコシ、秋には米……。」
「米だと!」
割り込むように口を挟む代官。野菜の名は聞き流していたようで、この地域には無かったり名前が違う物もある。
「ええ、あの上の方で少量ですが。来年には本格的に稲作を始めたいですね。」
マリーは上空にある第三層群玄関前広場を指す。
「米なんて、この田舎代官所に派遣されてから何年食べていないことか。」
「収穫出来たら少し分けてあげてもよいですよ。ただし……。」
「出来ることなら何でもするぞ。」
「ヨハネの首を。」
「は? 与作の首? ああ、ダンジョンは生贄で成長するんだったな。とはいえ、死罪になるような賊はそうそう居ない。」
代官、吉田西市佑は洗礼者ヨハネを知らないので「何でもする」の定番の答えも知らない。
「手に入る限りの種類の種芋と果樹の苗が欲しいですね。あと居れば家畜も。その代わり、こちらの種を少し分けましょう。」
「芋か……穀物がうまく育たないゆえに、この辺りでは甘藷が事実上の主食だが、できれば米を食べたいものよ。」
「今年は少し、来年にはそれなりに。ですね。具体的な量は収穫次第ですが。」
「それで、入植者は何人入れられるか。」
「場所的には入植者はあと100人程度は受け入れ可能ですが、現状では秋まで食糧が持ちません。第二陣を送っていただくなら、最低限の食糧は持参させて下さい。あと、先日賊に襲撃されましたが、1人逃げられました。十分注意してください。」
「賊の名前とか分かるか?」
「いいえ、名乗りを上げる前に罠に落としましたので。」
「賞金首だったかもしれないな。こんなのを持ってきたんだが。」
後ろに控えていた家来が1枚の板を示す。
「定、切支丹宗門は累年御禁制たり……伴天連の訴人 銀500枚、伊留満の訴人 銀300枚……。」
「大昔から、全ての村に立てることに決まっている物だ。この板は新しく書き写したものだが、文面は古くから伝わる。だが、伴天連が何かは分からない。伊留満は霞ヶ関の我が入間代官所と何らかの繋がりがある言葉とは思われるが……。」
「このあたりは入間と言うわけですね。」
「いや、ここは足立だ。全くの荒野なので代官所どころか村すら無い。今は誰も統治していない場所だから、それこそ、いっそ支配を宣言したって構わないだろう。」
もちろん異世界とは地理が異なり、入間代官所からこのダンジョンまでは3日程度。その他、いろいろと打ち合わせをして終了。
【屋上庭園】
「こんな不毛の地でも農業は行われていたんですね。人間の努力に感心します。」
「第一次入植者は農機具も種も食料も持っていなかったからな。農業は行われていないという誤解も仕方ない。」
「つまり、あの吉田西市佑が悪いのですね。打倒吉田政権です。」
「あの様子だと、米で釣ればあっさり陥落しそうな気もするが……。」
「で、その代官が持ってきた板ですが、あれ、異世界の切支丹禁令ですね。元は誰かが異世界から持ち込んだのでしょう。」
「つまり、そういうダンジョンがある可能性が高い。ということか。」




