258:宇都宮(餃子は無い)
【宇都宮城】
宇都宮城は、毛の国・河内郡茂原に隣接する、宇都宮左馬頭の城。
左馬頭や図書頭は従五位、大膳大夫は正五位で、五位鷺と大差無いが、「男爵」の位階はどの程度かな。と思う宇都宮左馬頭。
「一泊していく。人間のもてなしなど要らぬ。」
修羅に「飲む打つ買う」の接待は無意味。なにしろ何を食べても泥の味しかしない。ついでに、異世界では歴史の違いにより焼餃子はあまり一般的では無く、中国人により後清・中華帝国の水餃子(主食用)や中華民国の蒸餃子(点心)が広まっている。
「それで、メークイン男爵殿、今回はどのようなご用で。」
宇都宮城は夏は暑く冬は寒い。太日川は涸れ川で、水は井戸とスッポン池しか無い。とにかく那須塩原に対して立場が弱い。
「図書館都市ダンジョン。は知っているな。」
「はぁ、この近辺は端の方なので、砂漠のままですが、なんでも百万町歩の水田を作るとかで派手にやっておるようです。こちらでも、食い詰め者が出ていくので助かってはおります。」
「わざわざ家畜になりに行くとは、人間も堕ちたものよ。」
「飢えるよりは飼われる方が良いのでしょう。」
修羅は別に人間を食べるわけではないし、生贄だって図書館都市ダンジョンの規模なら寿命が尽きた者だけで十分。
「それで、左馬頭よ、ここに来たのは、小倉に、図書館都市ダンジョンからの手紙が届いたからだ。内容は知らないが、酷く尊大で無礼だったとは聞く。」
おまえが言うな。と内心思う左馬頭。修羅なんて大抵が偉そうで生意気なもの。今回の手紙だって、図書館都市ダンジョン側は対等の立場で書いて、那須塩原側は新興ダンジョンなのに生意気だと受け取ったというのが真相。
【転送陣】
河内郡衙、茂原は宇都宮城に隣接し、それらの西方には図書館都市ダンジョンの転送陣がある。
事前に訪問を伝えている訳では無いので、当然出迎えは居ない。関所の役人がダンジョンに照合し、メークイン男爵達を転送陣に案内する。
「狭いな。茶室よりは広いか。」
四畳半や方丈よりは広く、幅4m・奥行き3m程度だが、左右両側はベンチになっているため床の広さは3m角といったところ。外部確認用の窓はあるが、転送陣は地下なので見えるのはトンネルのみ。もっとも、もし屋外だと、転送陣を時速430kmですっ飛ばせば騒音がとんでもないことになる。
「おい、タバコに火が付かないが。」
「男爵様、火入れの炭が湿気っているかもしれません。」
メークイン男爵達は、それぞれの煙草盆を取り出してあれこれやってみるが、全く火は付かず煙草を吸えない。もちろん、図書館都市ダンジョンのダンジョン構造物内は火が使えないため。嗅ぎ煙草なら使用可能だが彼らは持っていない。
「それで、煙草も吸えずに何日もこの部屋で生活か。冗談じゃない。」
吐き捨てるメークイン男爵。
「男爵様、何日も、となりますと、食事の問題が出てきますが。」
「餓鬼ではあるまいし、その程度の配慮はあるはずだ。……転送陣をこんなことに使うバカどもだ、気がついたら干涸らびていたなんて十分あり得る。辞世の句を考えておく必要があるな。」
「辞世の句ですか。」




