256:田植機競争
【農村部】
各村で田植えが進んでいるある日、ダンジョン直轄地の水田に多くの住民達が集まっていた。田植機競争が行われるのである。
もし、図書館にも無い優れた技術なら、うまく行けば何千台分もの特許料が入ってくる。という訳で、何人もの篤農家や発明家が田植機を開発。もちろん特許制度は図書館都市ダンジョンでラージャが作った物なので、ダンジョン外に強制する権力は無いが。
田植機は大きさも大小様々。橇式・車輪式・駕籠もどき。動力は大部分が人が引っ張るか押すかだが、田の端から端まで綱を張り、田に入らずにそれを引っ張るもの、田に木製の軌道を設置しその上を移動するものも。
苗の植え方も、苗代から取ってきた苗を人力で据え付ける物が多いが、土付きの苗代を据え付けて端から苗を毟り取って植え付けるもの、最初から小さな鉢に苗を植えた物を個別に植え付けるものなど。
中にはダンジョンが小麦用に図面を配布した手動播種機を改良し、稲の直播きを試みる者も居たが、これは田植機では無く結果が出るまで時間がかかるため評価は保留。
例のごとくマリーが屋上から遠隔で挨拶して開催。
「お~っと、道場村の平八郎、まったく動かない。五関村の漢之介、馬を連れてくるも暴れて田植機が蹴り壊される。対して奈良瀬戸村のトヨ、言葉が通じる牛獣人を使うのは反則か。一方、鹿手袋村の又吉、村の若い衆を動員して田の外から綱で引っ張る。八王子村の三郎五郎、田植機は順調に進んでいるが、まったく稲が植えられていないぞ。」
泥にはまってまったく動かない物、すぐに分解してバラバラになる物、安定を失い転倒する物と、最初っからダメなものも、動きはするが苗の植え付けがうまく出来ないものも多い。
動いた田植機も、あまりにも構造が複雑ですぐに故障、人力では力が足りず操作者がすぐに疲れ果ててしまう、といった欠陥を抱えるものが多く、何とか完走した田植機も人力田植えより早くて正確なものは皆無という有様。
【第三層群屋上展望台】
「初回はこんなものでしょうね。田植え経験がない人が多いですし、図書館の知識もまだ広まっていません。何より、今回は手動式です。」
「マリーさん、来年は動力式で?」
「将来はともかく、来年、だとどうでしょうね。田畑に電線を引くのは大変ですから、今、手に入る動力となると電池とモーターですが、すぐに配ると事故が多発しそうな気がします。」
「半導体電池はエネルギー密度が高いだけに爆発すると大惨事だからなぁ。」
容器を含めると1kgの電池で1kWhが目安で、炭化水素燃料の1割程度。エネルギー転換効率を考慮しても1/3程度。
「それに、現状では図書館の備品を複製召喚するしかありません。手に入らない製品は、去年作った工業学校で人材を育成し、工場で生産する必要がありますが、まだ数年必要です。」
「実業学校は5年だな。」
「人間よりは頭の良い修羅なら、頑張れば3年で何とか……なるでしょうか?」
「教師も手探りだからなぁ。教材はあるとはいえ。」
「実業学校が軌道に乗ったら、安価な地方の県立工業系専門学校を複製召喚して……大学は図書館だけ召喚されましたが、小学校や実業学校では学校全体が召喚されています。専門学校はどうなのでしょう。」
「案外、ダンジョンの規模拡大により学校図書室や公民館図書室が順次解禁されたように、今なら大学も丸ごと召喚できたりして。」
「今度落ち着いたら、一番召喚コストが安い大学で試してみましょうか。ただ、特別市制度の関係で世界によって状況がだいぶ異なりますからね。割高ですが思い切って地方の官立大を召喚した方が安定しているかもしれません。」
「我輩が知っている異世界では昔の官立6医大は総合大学化しているが、これも世界によっては医科大のままだったりするから、召喚が上手くいかない危険はあると思う。」
「世界によったら、とか気にするなら、それこそ帝国大学でも狙うしかなくなりますね。ダンジョンエネルギーには余裕がありますから、いろいろ試してみるのも良いかもしれません。」




