242:相撲原
【第三層群屋上展望台】
「相模原では無いんですよね。この世界。おそらく異世界から文化を持ち込んだときに、字を間違えたのでしょう。」
マリーは世界樹にもたれ、地図を広げながら言う。
「相撲と相模はよく似ているからな。」
「丹沢ヒルズから木材を伐り出すなら、丹沢の真横、煤ヶ谷あたりから開拓するのが一番良いのでしょうが、府中の裏側にあたりダンジョン影響圏が届かないので、その北、中津に開発拠点を設置、高架道路で直結します。将来的には『中津飛行場』を作って飛行機を使うのも良いでしょう。」
「中津か。でも、大分遠いな。」
「ここから500km以上離れていていますから、電気自動車では到底航続距離が足りません。特に木材を運ぶトラックは重くなりますから、電池の消耗が速くなります。」
「要するに、電気自動車は航続距離の問題がある。」
「木材輸送には向きませんね。」
「そして、重油自動車は重油が入手出来ない。」
「この地域、油田は無さそうですから、藻を養殖して精製する必要があります。ですが、いずれにせよ化学工場を作るには人材育成に年単位の時間が必要です。」
「さらに、転送陣は木材の輸送には向かない。」
「あくまでも小数の冒険者をダンジョン奥深くまで移動させるものですからね。ついでに、運河を掘るのは論外ですし、飛行機は当面手が出ません。」
「マリーさん、その『論外』というのが思い込みかもしれない。」
「どう考えても論外でしょう。『ベトン級』戦艦は全長40m・幅10mですから、必要な運河の幅は40~50m。1日に150km航行可能ですから丹沢ヒルズまで4日です。大がかりになりすぎますし、4日では何かあったとき遅すぎますね。仮にもっと小型の船と細い運河を使ったところで、所要時間の問題は解決しません。」
「そうなると残る手段は鉄道くらいか。」
「それで、ざっくり探してみましたが、入手可能な公共図書館そのものまたは図書館の展示品、という範囲では過去に路面電車が数両あったようですね。」
「さすがに路面電車では遅すぎる。」
「確かに、京都とか金沢とか、観光地では便利ですが、距離500kmでは使い物になりません。」
「貨物用の機関車とか無いのか。」
「蒸気機関車なら展示されていたりしますが、動かすのは無理でしょう。電気機関車は基本的には台車に電動機が付いた物ですから、ダンジョン構造物と電動トラックの部品で作れないことは無いとは思いますが、すぐには難しいと思います。」
「もはや馬車しか無いか。」
「さすがに馬車は無茶です。現状では電気トラックを充電しながら何日か掛けて走らせることになるでしょう。人なら充電済みのバスを用意しておいて途中で乗り換えれば良いですが、貨物を積み替えるのは手間がかかります。あるいは改造してトロリーバスならぬトロリートラックというのもあり得ますが、これも改造に時間は必要ですし、どうも自動車と鉄道の悪いところ取りになりそうな気がします。」




