236:展望台限定マリー
【コアルーム】
「マリーさん、階段は難しいかな。」
マスターは文章をコアルームの端末に打ち込む。
「歩くのは難しいですし、まだ階段の上り下りは出来そうにありませんね。」
展望台からマリーが答える。修羅は植物と大差無いため風呂に入る必要が無く、時々アンがホースで頭から水をかけるだけで問題無い。このため、無理に降りてくる必要は無い。ついでに、修羅の「髪」は髪ではないため、人間のように手間暇掛けて手入れをする必要は無い。なお、マリーの場合、髪が伸びるのは主に晩春から夏であり、冬には伸びない。散髪は春が適季。
「思考入力は使いこなせそうかな。」
「ええ、思ったことが何でも文章になる。ということも減りましたし、限定的に仕事を再開することも出来るでしょう。やっぱり、わたしにニートは耐えられません。そもそも最初から案内役と副官を兼務するべく作られている訳ですから。」
「あとは体が動けば。かな。」
「首から下が動かないのを、世界樹から操っている訳ですから、どうしても問題はあります。また、非接触では接続が不安定になるみたいです。ダンジョンを操作するなど、大量の情報をやりとりするには、やはり世界樹との直接接触を併用しないと難しいようです。」
【第三層群屋上展望台】
マリーは世界樹に背中を預け、ゆっくりとダンジョンの状況を確認してゆく。服装は、白と薄い空色の細かい縦縞の生地で背中にボタンのあるゆったりめのワンピースで、ボタンを外し下着は首までめくり上げて背中を幹に接触させている。この手の服は太ると1人では着られなくなるが。
「非接触・接触併用の場合、これくらいがちょうど良いですね。手だけだと無理ですし、しがみ付くのはどうにも。」
世界樹から、さらにダンジョンシステムを操作する実験も成功。これで道路や水路など精度が要求されるダンジョン構造物も作成可能。
「誰かが攻めてきても、一応は対応可能ですね。現地に直接行けないという問題はありますが。ただ、わたしが引きこもりを続けていると、ダンジョン都市の求心力が失われますから、早い内に入植者達に顔を見せないといけません。」
「でも、次の新年は映像での挨拶かな。」
「あ、マスター、文字化されていましたか。」
「無理して地表まで運び降ろして挨拶できないより、映像でもきちんと新年の挨拶をした方が良いと思う。元気に見えたらみんな安心するだろけど、……マリーさん、少しやつれているな。」
「実際、世界樹によって無理矢理に体を動かしている状態ですから。ただ、挨拶は文章より音声の方が良いかとは思いますが。」
「合成音声か。既存の録音と挨拶のテキストからマリーさんの話を合成する。ミントさんに、正月までに可能か聞いてみよう。」
「いえ、時間があまりありませんから、無理をする必要は無いと思います。リアルタイムで処理できないなら、質疑応答などに対応できませんし。やっぱり、自分の声で何とか出来ないか、試みる方が良いと思います。挨拶の本文は紙で配るとしても。」




