220:鳴くまで待とうほととぎす。ただし春まで
【第三層群・管制室】
管制室では、ミントとサピエン先生が相談をしていた。
「側近書記殿の状況は思わしくないか。」
「残念ながら、現状では視線入力でゆっくり間違いだらけで。といったところだ。さすがに『Yes』と『No』すら怪しいということは無いが。脳自体が損傷を負っていて回復は期待できないのか、単に体を動かす神経の問題なのかは分からないが、いずれにせよすぐに回復する見込みは無さそうだ。」
「ダンジョンマスターでは側近書記殿の代役は出来ないし、名前付きモンスターにも現在代役ができる者が居ない。」
「このダンジョンでは、ダンジョンマスター権限の一部を使うには修士以上が必要だが、名前付きで該当するのは工学修士のミントさん、経営学修士のキンランさんの2人。私は医学博士だけど修士は無い。あとの4人は学士。召喚するときにこういう自体は想定していなかったようだ。」
「ダンジョン運営など到底手が回らないな。ただでさえ管制室は多忙で、分身を総動員して何とかしている状態なのに。」
「もっと分身を増やすわけには行かないか。」
「無理です。管理しきれません。繁殖した別個体なら個別に行動してくれますが、名前の問題で繁殖はできません。」
ミントは種族名と個体名が同じため、追加召喚や繁殖は出来ない。
「田島村は同姓同名が多いが。」
「あれはダンジョンモンスターではありませんから。でも、田島桜・田島サクラ・土合桜といった限られた名前が複数居て個体識別の用を為さない問題はどうしているのか知りません。」
「ただ、修羅が一人前になるには10年以上必要だし、繁殖は当座の解決策にはならない。それに、このダンジョンの紫蘇(修羅)は1種1個体なので、大抵はクローンや自家受粉ということになる。」
メードのアンと化学者のレオノールを掛け合わせればラバンジン、看護師のレオナルドと獣医のアウローラを掛け合わせればハーディーマジョラム。ということも可能。ちなみに紫蘇(修羅)の多くは、人間体の見た目がどうであれ生物学的には雌雄同体で種子繁殖。このため服を脱いでもR18にはならない。
ただし、修羅の種類によっては、一部の蘭ファミリーなど、いろいろとまずいのも居る。
「確か、館長殿に説明した3つの方法。だったか。」
「経過観察は現状通り。とどめを刺して復活を待つのは不確定要素が多すぎる。」
「最悪、木と意思疎通する方法を探さなければならない。でしたか。」
「最期が死体憑依召喚。だが方法は不明だし、都合の良い死者が居るとは限らない。ついでに、マリー書記の体に入れても適合する必要がある。」
「スポーツマン系だとストレスになりそうです。筋力はあまり無いので。」
「TS転生だと、おそらく精神的に重篤な問題を引き起こすだろうし、物語ならともかく現実には推奨できない。で、あの体は見た目はともかく機能的には男でも女でも無い。という問題がある。」
見た目も服で見えない部分は手抜きだったりするが。
「そんなこと言ったら修羅の多くは。」
「輪廻転生ではそういう問題は無い。幸い、即座に何か行動すべき状況でも無いし、春までは余裕があると思う。」
生前の、いや以前のマリーなら即決即行だが、こういう場合は焦って動いてもろくなことにならない。
「おそらく、春には本格的に動く必要があるからなぁ。それまでには方針を決めないと。」
「ただ、図書館の本は異世界の本であり、異世界に『死体憑依召喚』は無い。『輪廻転生』も宗教的概念であり、医学的に転生させる方法は知られていない。」




