番外:四ヶ国戦役
【第三層群10階応接室】?
「わたしが寝ている間に、近隣諸国、武蔵・総・毛・相撲の4ヶ国連合軍が宣戦布告ですか。」
「はい。毛の畜生ども、具体的には新井熊が騒いで、それに他国が乗せられたようです。側近書記殿、彼らにも準備は必要でしょうから、すぐに攻めてくるということは無いでしょう。いろいろと誤解があるようですので、戦闘になってしまう前に交渉を進めるべきかと思われます。」
ようやっと復帰したマリーにミントが現況を報告する。
「いえ、先に仕掛けます。ダンジョン影響圏に罠を仕掛け、通過する将兵、そして武器でも食料でも戦略物資を輸送する商人、見つけ次第処刑します。」
マリーは宣言する。
「マリーさん、さすがに商人はやり過ぎでは。」
「マスター、これは戦争です。敵国の戦力集中を妨げ、補給も断つには最善の方法です。商人に限りません。一切の交通を遮断してください。人間・獣人・餓鬼。難民だろうと何だろうと容赦はしません。」
「さらに、各国首都へ直接攻撃をかけます。ます総の国府台に対しては、前回、ゾンビダンジョン『小塚原刑場』から獲得したエネルギーで、中山競馬場ダンジョン手前に深さ1kmの穴を掘り、競馬場をまるごと倒壊させることで近隣を吹き飛ばします。今回は現地指揮をして巻き込まれるような失態はしません。もっとも、わたしには現地へ行く体力がありませんが。」
「その、競馬場は勘弁してくれないか。」
「マスター、どうしても賭博がしたいなら、場所を取らない競犬で十分でしょう。奥州だか欧州だかには犬獣人の国もあるそうです。」
「さすがに競犬は質が悪すぎる……。」
陸軍省の競馬に対抗し、海軍省が主導し手こぎボートの短艇を使用するのが競艇。その後、逓信省の競鳩などが加わったが、競犬はそれらの中で一番客層が悪いと言われる。なお、鉄道省は機関車を競争させる「競鉄」を構想するも費用が掛かりすぎるため諦め、文部省は陸上選手が直接走る「競人」を計画したが原理的に八百長の根絶が不可能なため断念した。
「だからマスターは甘すぎるのです。味方の犠牲無く敵を倒すには必要な事です。一方、毛の総社に対しては、近隣の高崎山ダンジョンは影響圏が隣接しないため掘り起こす手法は使えません。総社手前の涸れ川にダンジョン構造物でダムを作り、大量の水を流し込むことで水没させます。」
もちろん異世界の高崎山は高崎市では無いが、ダンジョン生成では同名や似た名前の物や概念は引き合うという傾向がある。
「水攻めですか。」
「そうです。当然水が足りませんから、一時的に見沼の水を抜きます。」
「側近書記殿、それでは麦が育ちませんが。」
ミントが止める。
「かまいません。この戦争で近隣諸国では百万人は人口が減りますから、食料には余裕が出来ます。人間は繁殖力だけは極端に高いので、例え百万・二百万減ったところですぐに殖えます。」
「この2つの町を滅ぼしてから、武蔵の府中を力攻めにします。」
「戦力的には圧倒的に劣りますが。」
「国府台と総社を滅ぼして得たダンジョンエネルギーで、府中近くに大穴をあけます。町はダンジョン構造物の上に載っている訳ではありませんから、勝手に穴の縁が崩れて崩壊します。」
「側近書記殿、ダンジョン影響圏の端から府中まで何キロもありますが。」
「7~8kmですね。なに、安息角などを考慮しても深さ10kmの穴を掘れば十分です。」




