206:入間代官ひらめく……宙に浮くダンジョン(9日目・午前)
【第34層群・生涯学習棟・小研修室】
「ダンジョンの成長が止まっていたから、とうとう決着が付いたかと駆けつけたが。」
入間代官、吉田西市佑がやってくる。
「すみません。昨日は丸一日寝ていました。ゾンビ、首無し死体にはきりがありません。どうやら『無尽蔵』のようです。」
「さすがに17里、20万尺を越えるとなると、万が一こちらに倒れて来たとき大惨事だから、どこかで亡者には尽きて欲しいものよ。」
「結局、直接相手のダンジョンを攻略する必要がありますが、水力採掘では小塚原刑場ダンジョン自体を掘り崩すことは出来ませんでした。別の方法を検討中です。」
「水力、なんだっけ。」
「ローマ式の金の採掘方法です。大量の水で山を掘り崩して金を採掘します。」
「老魔? で金?」
「あの、この地域では、金鉱山はどのように採掘されていますか。」
「金か。有名なのは『サド金山』という鉱山ダンジョンだが、なんでも『女王様』というのが奴隷達を豚と罵って鞭で叩くと、金が落ちるらしい。これを鎚で叩いて延ばし小判とする。つまり、基本的に奴隷1人から採取できる金は小判2枚だ。もちろん重さが規準と異なる場合は調整する。」
「それは参考になりませんね。」
切り捨てるマリー。
「あとは、はるか東北の地の果てに金を産する地獄ダンジョンがあり、亡者が金をもたらす。と聞いたことがあるが、あまりにも遠くなので真偽は不明だ。昔は相撲の向こうにも金を産するダンジョンがいくつかあったが、おそらく全て掘り尽くされて崩壊した模様だ。」
「念仏を唱えてゾンビが成仏してくれるなら楽なのですが……。ダンジョンの土の中にコアが埋まっていると予想されるため、何らかの方法でダンジョンを掘り崩したい。ということなのですが、良い方法はないでしょうか。」
「前世の因果で地獄の亡者に輪廻転生した訳だから、念仏も本人か高僧で無ければ効果は乏しいだろう。それで、城を掘り崩す。というなら土竜攻め。というのはあるが。」
「ああ、穴を掘って火薬を詰めて吹き飛ばす。という。」
「甲の国の餓鬼が時々使う方法だ。だが、武蔵にそれが出来る者は居ない。ところで……ダンジョンは空中に浮くのかね。」
「いえ、ダンジョン構造物は空中には浮きません。浮くなら、いろいろと便利な使い方が出来るのですが。」
「なら、ダンジョン自体は壊せなくても、下から掘り崩してひっくり返してしまえば良い。亀ならひっくり返しても首で起き上がるが、首無しダンジョンにそんな芸当は出来ないし、亡者は勝手にダンジョン自体の重さで潰れるだろう。」
「このダンジョンは塔型なので地下にも木の根のように広範囲に渡って深い基礎がありますが、もし、あのゾンビダンジョンに根がないならひっくり返すことが出来るでしょうし、仮に根があっても深く掘って根こそぎにすればゾンビは勝手に墜落して潰れますね。幸いダンジョンエネルギーは大量にありますから。ありがとうございます。上手くひっくり返す、となると複雑な計算が必要でしょうから、結局、穴に落とすといういつものやり方が一番良さそうです。」
「うむ、吉報を待っておる。亡者は白米など栽培してくれぬからな。」




