193:ゾンビの正体に関する根拠の無い憶測
【第三層群・管制室】
「豊島代官どのによると、死体は切れば消える、矢で射れば崖から転がり落ちるが消えない。つまり致命傷を与えるのは困難とは言え、不死身では無い。ということですね。」
マリーは無名橋の関所に居る富木長慶に回線を繋げ質問。
「代官どの本人は撤収作業中。代官の使者による報告だ。手足を切れば繋がることはないが、それだけでは倒せないとのこと。」
「となると、心臓か、脊髄か……。」
「図書頭様、心臓を狙って槍で突くのは難しいし、背骨なら刀や薙刀でもそう簡単には斬れないだろう。」
「倒せば消えると言うことは、おそらくダンジョンモンスターです。モンスターがダンジョンから出てくることはあり得ませんから、何らかの厄介な『固有法則』を持つと思われます。ここからは全くの憶測ですが、『ダンジョンモンスターがダンジョン外で活動出来る』か『名前付きモンスターの枠が極端に多い』可能性があります。とはいえ、万を超えるモンスターにいちいち名前を付けるのは大変ですから、『ダンジョンモンスターがダンジョン外で活動出来る』と思われます。」
「マリーさん、つまり、ダンジョンからゾンビの大軍が町を襲うことが出来る。ということか。」
「はい。その件ですが、通常、ダンジョンエネルギーはダンジョン影響圏内でしか獲得できませんから、モンスターを意図的にダンジョンから出す意味はありません。ごく小規模なダンジョンに1万ものモンスターが居ることから『ダンジョン影響圏外でもダンジョンエネルギーを獲得できる』という固有法則も持つと推測できます。」
「影響圏外で?」
「推定100m四方程度と小さいダンジョンがゾンビ1万体を用意出来ると言うことは、ダンジョン影響圏外でもダンジョンエネルギーを収集していた。と思われます。」
「地下に巨大な迷宮が埋まっていたりはしないのか。」
「それはありません。すぐ近くまでこちらの影響圏に組み込んでいますが、地下に他のダンジョンがある土地を影響圏に組み込むことは出来ません。要するに、ダンジョン外であってもゾンビを恐れるという感情そのものがゾンビの増産に使われる。ということです。」
「また厄介だな。」
「あと、ゾンビが死体であるなら、六道の『地獄道』に属する存在です。餓鬼はあれでも生き物ですが、ゾンビは生きてはいません。」
「地獄の釜の蓋も開く。という訳か。」
「いえ、それは誤用で、地獄の釜の蓋も開く。とは、盆や正月には地獄の拷問も休みになる。という意味です。おそらく、ダンジョンそのものが地獄か、地獄から亡者を呼び寄せているのではないかと思われますが、相手が何ダンジョンなのか分からないため、法則性などは不明です。」
「首がないから、首狩り族だろ。」
「マスター、それ、何も特定していないのと同義ですよ。そもそもこの地域の住民は首狩り族なのですから。『首実検』の存在から明らかなように、異世界日本だって中国人や白系ロシア人など以外は概ね首狩り族です。ただ、これだけの数の首がない死体があると言うことは、何らかの大規模な古戦場関係では無いかと思われます。」
「異世界の位置的には東京市内に対応するかな。」
「異なる歴史の世界に由来する可能性も当然ありますし、そうなると特定は困難ですね。戊辰戦争で江戸城総攻撃が行われ、旗本達が首を獲られた。という世界の可能性もあります。」
「なるほど。」
「商都梅田は大規模なダンジョン都市ですが、この図書館都市ダンジョンと繋がりが深い異世界では、大阪駅からは数千の人骨が出ていますから、その異世界の影響を受けていたなら、商都梅田の住民は骸骨だったでしょう。」




