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019:本に埋まって死ね!

※R-18G描写は省略していますが、海賊が処刑されますので、ご注意ください。

【コアルーム】


「マスター、第一層群・玄関ホール天井の石膏ボード……天井板をダンジョン構造物から除外してください。」

「あ、分かった。でも、ダンジョン構造物では無くなったら破壊されるぞ。」

「今回はかまいません。」

 マスターはコアに手を当てながら、石膏ボードをダンジョン構造物から外す。



【玄関ホール】


 ミシっと天井がきしむ。

「天井裏に忍者か。槍……折れていない槍で天井を突け。」

 高崎上野掾たかさきこうづけのじょうの命令で、まだ折れていない槍を持っていた雑兵が天井を突く。天井はダンジョン構造物では無くなったので穴が開く。

 そして、ダンジョン構造物から外された天井は、天井裏に大量に備蓄された燃料本や新聞紙の重さに耐えられず崩壊、硬い燃料本や10kg程の新聞の束が雨あられと降り注ぐ。

「なんだこれは~!」「ぎゃー!」

 絶叫とともに賊達は本と新聞に埋まっていく。天井裏がさほど高く無かったこともあり、新聞紙は床から1mほど積み重なるだけだったが、賊の大部分は身動きが取れなくなった。運の悪い数人は即死しダンジョンに吸収される。

 もちろん、メートル法と無縁の高崎上野掾視点だと、重さ2貫半ほどの紙束が3尺ほど積み重なる。となるが結果は同じ。



【コアルーム】


「マリーさん、これはいったい……」

「マスター、かまわず本と新聞をどんどん召喚して下さい。」

 本を1冊づつ選んで召喚するときはマリーがするが、何も考えず大量召喚するときはダンジョンマスターがやった方が早い。

「本は本棚にしか召喚出来ないはずだが……あれ、出来た。」

「『こんなこともあろうかと』です。天井スラブ、つまり建物自体の天井に本棚や新聞受けを固定してあります。」



【玄関ホール】


「おいこら、やめろ、この紙の束を止めろ!」

 高崎上野掾が泣こうが喚こうが、本や新聞は止まることは無かった。彼が人生の最後に見たのは、上からドサドサと降ってくる紙。

 賊は重さで呼吸できず順次圧死してダンジョンに吸収されていき、残ったのは玄関ホールを埋め尽くす紙の山。



【コアルーム】


「これは燃料本と新聞を運び出すのが大変だな……。それにしても、とんでもないやりかただ。」

「吊り天井をダンジョン構造物とすることで耐荷重を大幅に増やして、天井裏に本や新聞を積んでおき、ダンジョン構造物から除外して破壊可能な家具扱いに変更することで、釣天井として下にいる者を押しつぶす。というものです。」

「図書館ダンジョンに罠なんか設置できないと思っていたが。」

「『本を焼く者は、やがて人も焼くようになる』と言いますので、玄関ホールに可燃物を配置しておき、玄関ホール自体をダンジョン本体から除外して固有法則の適用外とし、火を付けて焼き払うことも考えました。でも、法則管理の処理が面倒ですし、不測の事態が起きる可能性も否定できません。」

「死因で取得エネルギー変わるのかな?」

「さぁ。こういうの数値化できませんからね。燃料商の越前屋さんの番頭さんは、『石の神殿では、石の上で石により殺すのが良い』と言っていましたが、図書館で生贄は本により殺すのが一番良いのかもしれません。」

「さすがに2回は使えない手だな。」

「珍しい方法ですから、たぶん有名になってしまいますからね。次はどこかに閉じ込めて暖房掛けて加湿して蒸し殺すとか、別の方法を準備しましょう。」

 さらっと恐ろしいことを言うマリー。なにしろ、修羅界は光や水と言った共通の資源を奪い合う戦いの世界。


「本に埋まって死ぬなんて最悪から何番目だろうか。」

「かなり下位とは思いますが。歴史書には、もっととんでもない話がたくさん載っています。例えば……(以下略)

 そういえば、このダンジョン、本来は牛頭馬頭ごずめずを召喚出来る図書館地獄でしたね。わたし、図書館地獄の責め苦って、無理矢理本を読ませるか逆に本を読ませないかのどちらかだと思っていましたが、本に埋めて、亡者なので死ねない。ってのが図書館地獄だったのかもしれませんね。」

「馬頭は皐月賞馬のビューサントルだったかリユウナシだったかな? 牛頭って居たかな?」

「牛頭の牡がミノタウルスなら、牝はミノワッカ(ワッカはギリシア語で牝牛)なのでしょうが、あまり聞きませんね。ミノタウルスは本来はダンジョンでは無くラビュリントスに住んでいるものですが。」

「『美濃牛』のブランドを名乗ることが出来るのは雄だけなんだろう。松阪牛は雌しか居ないから雄だけのブランド牛もあるはずだ。」

 牛頭馬頭でも無いし地獄でも無い。ましてや競走馬では無い。召喚されるはずだった司書は泣いてもよい。ついでにミノタウロスはミノス(クレタ島の王)の牡牛であって美濃の牡牛では無い。


「マリーさん、え~と、美濃タウロスが住んでいたのがラビュリントスだったな。ダンジョンとはどう違うんだ?」

「まず、『ラビュリントス』は古代地中海地方由来の宗教的施設で、一本道であり分岐はありません。ギリシア神話のミノタウルス、当時の発音でミーノータウロス、『アステリオス』という個体が居たとされるのもこれですね。」

「名前あったんだ。我輩には無いのに。」

「地獄には牛頭がたくさんいますから。」

「牝牛のミノワッカだったなら、おそらく『アステリアー』となったのでしょう。ギリシア神話の魔女ヘカテーの母親と同じ名前ですね。」

「ダンジョン……じゃなくてラビュリントスに『捨てられた』から『アステリアー』になるのか。なるほど。」

「無関係でしょう。本来はミノア語の名前があったはずですが、わたしが読んだ範囲の本には載っていません。」

「で、ダンジョンは?」

「『ダンジョン』は城の地下砦から発展した物で、地下牢や宝物庫を兼ね、当然一本道とは限らず大規模なほど構造は複雑になります。

ですが、どうやら、この世界では、怪物が居て宝物があるような洞窟や建造物。って程度の意味になっていますね。」


 「ミノタウロスのメス」は往々にしてホルスタインで描写されますが、黒毛和種限定の飛騨牛ではないので、ホルスタインのミノワッカは間違いではありません。ミノス王の居ない世界だと「ミノ」に別の意味が必要ですが。


(明日は休載です)

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