157:狸の泥船(進水式)
【見沼の岸辺】
マリーの元に、海上太郎・久喜左馬頭・村上八千代が、それぞれ数人の家臣を引き連れ参上。見沼の岸辺には泥で作られた船状の物体が置かれており、陸側では住民達、水面ではナマズの吉川一族や河童達が見学している。
「皆さんにも分かりやすいよう尺貫法で説明すると、長さおよそ13丈、幅3丈、船体の高さ1丈余り。ほぼ千石積みとなる。」
造船技師の水戸が説明する。全長40m・幅10m程度で河川用としては大きめ。船首には大きく「一」と書いてある。
「帆走は熟練を要するし、見沼はあまり広くは無く、帆船は橋をくぐることも出来ないため、低速の電動式としてる。」
湖沼用で航行速度は8ノット(15km/h)と低速だが、1日に150km以上航行可能であり、徒歩で4日かかる戸田まで2日かからない。
「船体が土を固めたダンジョン構造物、いわばコンクリートみたいなものですから、この船を『ベトン』と命名します。ベトン級は今後同型船を量産し見沼に君臨することになります。」
マリーが命名しロープを切る。君臨とか言うが、どう見ても用途は鈍足の湖沼用貨物船であり、現時点では湖上で餓鬼の大軍を食い止める戦艦とは言えない。
「『べとん』の同型なら、名前は『ざぶとん』『おふとん』かなぁ。」
村上八千代が言う。
「いや『すいとん』『きんとん』あたりが良いだろう。」
海上太郎が続ける。
「『こんとん』『いんとん』。」
と、久喜左馬頭。
「……。」
マリーは黙ってしまったが、この世界にはコンクリートという単語自体存在しない。仮に海神「トリトン」と命名していても結果は同じだっただろう。船はゆっくりと見沼に滑り込み、見学者達からは歓声が上がる。
【見沼】
「ナマズの皆さんは船には乗らないのですか。」
マリーがナマズに聞く。
「鮎は泳ぐので船には乗らないかな。河童は船に乗るそうだけど。」
「河童ですか。あ、ペレイラ和尚、河童は船を動かすことは出来るのですか。」
「いかにも。元々プルトゥゲシュは水の種族であり、多数の航海者の伝説が伝わっている。もっとも、この地に居るプルトゥゲシュは小舟程度しか扱ったことは無いが。」
河童のアントニオ・アウグスト・サントス・ペレイラによると、河童は元々航海と縁が深い種族とのこと。
「ならば、よければ河童からも何人か船員を出して下さい。」
「うむ。分かった。」
「まず、1番船『ベトン』で練習をしてもらいます。その情報を元に、2から4番船を建造し、あなたがた河童と海上・九鬼・村上の各一族でそれぞれ練習、慣れたら2~3隻づつ船を扱ってもらう予定です。」




