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015:入植者第一陣

【図書館ダンジョン前】


 代官が数十人のみすぼらしい人々を連れてきた。

「書記長どの、移住希望者を連れてきましたぞ。普通は未知の地へ移住したい者は少ないが、なにぶん食糧が乏しいから可能性に賭けるしか無い。」

「部屋と畑はこの図に従って割り当ててください。図書館の閲覧室はフロア、いや部屋が広いので、区切って使ってください。基本的なことは書面で……読み書き出来ないんですよね。」

「自分の名前が書ければ十分だからな。」

「で、『剣術は1人を相手にするに過ぎないから学ぶ価値は無い』って言って、最後は四面楚歌。」

「しめんそか?」

「学問をあまりにも軽視する者は滅びる。ということです。」

 全然違う。

「世話役は、この太郎左衛門なので、よろしく頼む。」

 中年の、頭がかなり、いや、少し薄くなった男が紹介される。

「岡田太郎左衛門だ。」

 江戸時代なら庶民は公式には名字を名乗らなかったが、この地域では大抵の人は名字がある。もちろん、冒険者の一部など名字を持たない(あるいは捨てた)人も居る。

「収穫に余裕が出たら、そこらの冒険者を捕まえて村まで運ばせて欲しい。20銭もあれば十分だろう。年貢は3年免除、と言いたいところだが、ここはダンジョン内だから、書記長どのに任せるしか無い。」

 代官はそう言うと去って行った。

「それでは、岡田太郎左衛門……殿?」

「太郎左衛門で良いですよ。」

「土が死んでいますから、肥料を与えないといけません。水は図書館の屋外散水栓からホースを繋いで……方法考えないといけませんね。農業指導員か何か召喚しないと……。」

「では、具体的な指示をお願いします。多くの者は大雑把な命令では理解出来ません。」

「義務教育からやり直してください。って言いたいけど、まずは出来ることを始めましょう。その前に、食糧は何日分あります? 収穫までは手持ちでやりくりしなければいけませんから。」

「いえ、何も持っておりませんが……」



【コアルーム】


「あの代官……。修羅用の液肥って人間が飲んで大丈夫なのかしら?」

 修羅が人間の食事を採っても問題無いが、修羅の餌を人間に食べさせると、長期的には一部のアミノ酸、ビタミンA・B12・C、カルシウム、鉄・亜鉛など、いろいろ足りなくなる。

「我輩の缶ビールはカロリー高いが。」

「で、『猫じゃ猫じゃ』って踊った挙げ句に溺れ死ぬんでしょう。マスターがあんまり変なこと言うようなら、唐津の人を呼んできて鍋にしますよ。」

 もちろん、このダンジョンで直接召喚は出来ない。

「そもそも、野菜は栽培するとして、肉はどうするんだ?」

「この世界では、ニワトリ、あと『ドロップアイテム』として肉を落とすダンジョンモンスターに依存しているようですね。」

「ダンジョンモンスターということは、生きたまま連れ出して殖やす訳にも行かないか。」

「『名前付き』になっていない限り無理ですね。そもそも、仮に牛を入手したとして、このダンジョンでは手に余ります。」


「マリーさん、まず短期、最初の野菜が収穫できるまではどうしようか。」

「液肥、畑用ではなく直接飲む方で、栄養失調になるまで時間を稼ぐしか無いでしょう。」

「その後は?」

「青菜やカブが1~2ヶ月、あとは、気候がどうなっているか確認しながら陸稲や大豆にも手を広げたいですね。芋類や果樹は『雑誌の付録』として流通しづらいため、どこか他から入手しないといけません。

 一方、肉類は交易で入手することになりますが、本来このダンジョンで最も価値がある『知識』が、この世界では無価値ですから……。」

「肥料を直接売るとか?」

「土が死んでいますし、ダンジョン以外で使っても効果が薄れます。ダンジョンでも、図書館というものは花壇とかあるものですから植物を植えられますが、例えば海賊船だと船の外側の荒野に肥料を撒いても無駄ですね。本来海である場所ですから。」

 ダンジョンマスターが余計なことをしなければ、冷蔵庫の肉や野菜で食いつなぐことは可能だった。



【図書館ダンジョン前】


側近書記セクレタリーのマリーが、ここに図書館ダンジョン都市の設立を宣言します。わたしは校長では無いので、挨拶は手短に切り上げます。」

「不調なのか……」

 校長という単語を知らない入植者の1人がつぶやく。

「それでは乾杯します。わたしが『スコール』と言ったら、皆さんも『スコール』と言って、お配りした飲み物を飲んでください。」

 冷蔵庫にあったマスターの缶ビール・ブラックコーヒー・コーラが配られる。エナジードリンクはメーカーが違い乾杯の発声にそぐわないため残されている。……というのは大嘘で、さすがに刺激が強すぎるため。

 そして、ダンジョンマスターだけはコアルームでお留守番。名前付きモンスターは復活可能だが、不測の事態が起きないとも限らないのでマスターが人前に出るのは危険すぎる。

「スコール」

「スコール」

 こうして、新田開発が始まった。水田が無いのに「新田」と呼ぶ理由は不明。



(第一章・完)

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