130:商人達の思惑
【西門、上小町】
入間から多数の商人が大量の食料を持って続々とやってくる。
「越前屋さん、何の騒ぎです? これ。」
「同志図書頭様、粟軍が大量の食料を注文しているのですが、指定の引き渡し期日は概ね3日後から順次。場所がこのダンジョンの外側なのです。」
「なるほど。このダンジョンを包囲して、商人から食料を買い続けるなら、秋の農繁期が来るまで粘ることが出来るのか。考えましたね。」
「一番大量に注文が入っているのは酒です。他もかなり良い値段を提示していますから、穀物商・乾物商・酒商など以外も来ています。もちろん、わたくしは粟には何も売りませんが。」
「酒ですか。なるほど。やはり餓鬼ですね。粟が予約しているより高い値段で買えば、契約済み以外は奪えますが、金銭が余計に必要ですね。でも、このダンジョンは金銭は生成出来ませんから、前回筑波より奪った分しかありません。一方、商人から無理矢理接収なんかしたら、今後彼らの協力を得られなくなります。ですが、粟が受け取る前に粟軍自体を滅ぼしてしまえば、ある程度安く購入出来るでしょう。」
「実際、接収はお勧めしませんね。あのいけ好かない連中であっても。悪評はたちまち広まりますから。このダンジョンが『捕虜を取らない』というのは、ダンジョンである以上外征なんか出来ませんから、ここへ攻め込まない者には無関係ですが、『商品を奪われる』となると、みんな嫌がります。」
「それにしても、粟軍が勝つと思っている商人がこんなにも居るのですか。」
「勝つ必要は無いのです。仮に筑波軍みたいに城壁前で全滅したところで、その前に商品を売ってしまえば良いわけですから。」
「商人から商品を奪うのはダメですが、粟軍が買った物を横取りするのはかまいませんよね。」
「それは誰も文句を言う資格は無い正当な略奪でしょう。」
「もっとも、既に田畑の作付けを進めているので、わたしとしては、この付近にすら粟軍を入れたくはありませんが。それで、やはり一番大量に注文が入っているのは酒ですか。」
「最初から戦傷祝いというのは不自然ですから、たぶん餓鬼を大量に雇っているのでしょう。素人考えなら、このダンジョンに攻め込むには餓鬼が一番有用ですから。」
「越前屋さんなら、このダンジョンに攻め込むなら、どうします?」
「わたくしですか。ダンジョンは遠征できないのですから、ダンジョンの手が届かない場所にある物を持ってきて商売しますよ。同志図書頭様みたいに、商談できるダンジョンなんて他に知りませんから。」
【第三層群・会議室】
第三層群10階。10席の会議室にマスター・マリー・ミントが集まる。
「粟軍ですが、やはり人数は未確定なものの、想定規模の最大、3万人規模の模様です。国府台や平塚で合流した傭兵・冒険者・商人などはごく少数ですが、餓鬼がおそらく10万前後居る模様で、合計で10万は確実に越えている模様です。粟軍が昼間先行して行軍し夜は野営、後から餓鬼は夜行性なので夜に行軍して追いつき、昼は休憩している模様です。餓鬼は歩くのは遅いですが、食事が要らないためか1日の移動距離に差は無い模様です。」
ミントが報告する。餓鬼は食事が要らないのでは無く、アルコールやエーテル以外は食べられないだけだが。
「餓鬼ですか……やはり餓鬼を大量に集めてきましたか。7割餓鬼って、ほとんど餓鬼軍じゃないですか。それで、小田原攻めや関ヶ原の10万人に近い規模の大軍勢なのに補給が必要なのが3万と。ほんと、戦争で餓鬼はチートですね。本来は修羅こそが戦闘種族のはずなのですが。で、ミント、このダンジョンの滞在人数は?」
「流入が加速していますから、3万は確実に超えています。おそらく4万に近いでしょう。さらにここ数日、訪れる商人が急増しています。」
「つまり『ダンジョン内の同時滞在冒険者数』が確実に10万人を越えるということですね。10万なんて数がシステムで想定されているのかは不明ですが。あと、少しでもダンジョンエネルギーを増やすために、マスターの冷蔵庫にある酒類は、残らず全て入植者や商人に振る舞ってください。必ず勝たないといけません。酒自体は商人が大量に持ってきてはいますが、あれは売り物ですから。」




