001:吾輩はダンジョンマスターである。名前はまだ無い
【コアルーム】
「吾輩はダンジョンマスターである。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。」
著作権が永続する世界なら問題になりそうなことを言ってみるダンジョンマスター。どうやら一通りの知識は頭にあるようだが、それが使い物になるかは分からない。
ニャーニャー泣いても意味は無いので、まず状況を確認する。
ダンジョンと言うものが、冒険者の感情と生命をエネルギー源とする存在である。というのは知識としてある。ダンジョン「マスター」ということは、迷宮に関する修士号を持っているということ。工場の技術者や工事現場の監督が(普通は)工学修士を持っているのと同じ。ポケットモンキーマスターは動物学だから理学修士だろう。偶像マスターは美術なのか宗教なのか。
見たところ別に、いかにもダンジョンっぽい「薄暗いじめじめした所」ということはなく、ごく普通の小さい事務所といった感じ。いくつかの事務机と会議机、片隅には流し台がある。どう見ても『迷宮』といった雰囲気では無い。そして、ダンジョンマスター自身がこの場の主人であり、教師や書生の姿は見えない。
唯一迷宮っぽい物体は、机の1つに、白と緑が混ざったような色合いの石で出来た30cm角程度・厚さ6cm程度の四角い台があり、ざっくり直径20cm程度の銀色の金属球が載っている。なお、この世界にメートル法があるかは分からない。
壁には空の書類キャビネット、本棚、ホワイトボードなどが設置されており、扉が2つと大きな窓がある。ホワイトボードには水晶から光が放たれ、「menu」という単語が浮かんでいる。食事の注文用だろうか。
事務所の本棚には、
『Encyclopedia Dungeonica』
と書かれた分厚い本が数十冊並んでいる。一冊手に取って見てみるが……意味が分かる単語もあるが、文章としてはろくに読めない。非識字だからか、読み書きを忘れてしまったためか。
その横に、
『Dungeon 101』
という薄い本があるが、もちろんこれも読めない。
窓から外を見てみると、広大な荒野が広がっている。空は一面の灰色で大地は薄暗く何も生えていない。こんな不毛な地に冒険者とやらが来るのか。
扉の1方を開けてみると、比較的大きな部屋がある。部屋の中央には机と椅子が並び、周囲の壁沿いには空っぽの本棚が並んでいる。そして、扉の前はカウンターとなっており、カウンターの横に外へ通じるガラス戸がある。
どうやらこのダンジョンは図書館、いや、規模としては図書室ってあたりか。本は1冊も無いが。
なお、もう1方の扉の奥は居住区画となっている。共用の食堂・台所・風呂・トイレの他、各居室にも簡易台所とシャワールームがあり、なかなか高水準。でも、風呂には入らず水洗トイレも使わないダンジョンマスターには無用の長物。
台所には冷蔵庫があり、野菜・果物・肉・魚・卵・牛乳などと、ブラックコーヒー・缶ビール・エナジードリンクが。冷蔵庫の横には米や調味料が並んでいる。