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平成も終わるのにこんなホラーあんのかよ?〜とあるバス運転手さんのケース〜

作者: 櫻井ゆう


新しい元号は「令和」であります


街のオーロラビジョンには発表されたばかりの元号を掲げる官房長官のオッサンが映し出されている。

そう、あと1ヶ月で平成の世の中は終わるのだ。


思い出せば暗い話題が先走り、未だに平成の時代を忌み嫌う人間も中にはいるが、少なくとも自分は山あり谷ありのようなそんな時代をさして嫌うわけでもなく、そんな平成の時代も終わりに差し掛かった最中、まさかあんな出来事で締めくくられるとは夢にも思わなかったが、、、


バスドライバーとして地方私鉄系のバス会社に勤めて10年が経とうとしていたある日の出来事だ。

その日は日に数本しか便がない路線担当だった。

海沿いのターミナル駅を出てから1時間近く走らせた場所にあるとある寺の近くのバス停までの路線だが、利用するのは病院通いの老人数名に、地元の小学生数人と未だに何故廃止にならないのか毎日不思議なぐらい閑古鳥が鳴くぐらいの乗客数である。


終点のバス停に着く頃には誰も乗っておらず、折り返しのスタートも誰もいない…はずだった。


ふとミラーを見ると、最後部の座席に誰かが座っていた。

マイクで終点のアナウンスをするも、全く反応が無い。

「寝過ごしか…」

運転席を立ちあがり、最後部の座席に近づいてみると、そこには高校に上がりたてぐらいの年頃だろうか、、、艶のある黒髪のショートカットの学生が気持ちよさそうに寝息を立てていた。

「終点ですよー

もしもーし…起きないか?…」

「もうたべられにゃ…

ふぇ!?」

起きたようだ。


「あのー…終点なんだけど…

家はこの近くなの?

途中からかなり乗り越しちゃったなら、折り返しでそのまま乗って帰っていいけど」

「あ、あああの大丈夫ですぅ!家ここから近いので!!ありがとうございました(?)ぁー!!」

何故そんな驚いたのかはわからないが、おもむろにせかせかと出口に向かってダッシュしていった。

「あ…ありがとうございました…」


次の日もその子は後部座席で居眠りをしていた。その度に起こしては同じようなやりとりが繰り広げられた。

その後も度々その子は現れた。


だがここで不思議な点がある。

必ず終点まで乗っているのに、どこからも彼女を乗せた記憶が無いのだ。

気づけば終点間際に後部座席にいる…


そんな疑問にかられながらもその日も終点まで乗務し、折り返しの時間まで近くでタバコを吸いながらボーっとしていると、道端にある看板を見つけた。

そこにはこう書かれていた


交通死亡事故の捜査協力をお願いいたします

発生 平成◯◯年◯月◯日 ◯時◯◯分ごろ、当車道において死亡事故が発生しており〜


今思えばそこで読み止めておけばよかったのだろうが、迂闊にもその先を読んでしまった


被害者 ◯◯ ◯子さん15歳


そこには、生前の被害者の写真が掲載されていた。

その瞬間、妙な動悸と共に冷汗が溢れ出た。

間違いない。


時折終点まで乗ってくるあの子であった。


「まさか…こんな事って…」


「あー…

見ちゃいましたかそれ…」


気付いた時には彼女が後ろに立っていた。

「確かに私…死んでるんです。

いわゆる今の私はお化けってやつですかね…」


今目の前で起きていることに戸惑いを感じつつも、何故か怖さは全く感じなかった。


「実は…

死んでから私の事始めて見えてくれたの…運転手さんが初めてだったんです。」


彼女はおもむろに語り出した。

数年前にちょうどこの終点のバス停まで乗車し、家までの帰路についている最中轢き逃げに合い命を落としたのだと。

ただ、彼女がいまだにこの世に残っているのには訳があったのだ。


「その…カバンに小物入れを入れていたのですが、事故の時にどこかいってしまったようで…その中にはとても大事なものが入っているんです!!よければ探していだだけないでしょうか…」


翌日からその事故現場周辺を折り返し時に探してみることにした。

だが、雑草が生い茂っていて中々見つからず、八方塞がりな感が出てき始めていた。


見つからなければ今後もあの子に憑きまとわれるのかという不安が滲みつつも、バス停の脇にある自販機でコーヒーを買おうとした時であった。

運悪く小銭を落としてしまい、そのまま自販機の下へと吸い込まれていった。

街中なら諦めて再度財布から小銭を取り出そうとしていただろうが、周りに人っ子一人歩いていないような閑散とした場所ということもあり、かがんで自販機の下へと手を伸ばした時であった。

小銭以外の何かが手にあたる感触があったのだ。


引っ張り出してみると、それは間違いなく彼女の言っていた小物入れであった。

そして中には自分が普段から見慣れたある物が入っていた。 

「やっと見つけていただけたんですね!!」

前回と同じく彼女は急に現れた。


「それ…覚えてます…?」


彼女の言うそれとは、うちのバス会社の整理券であった。

もっと言うと、一枚一枚に発行部数がふられた独特なものであるが、よく見ると全て7が揃ったゾロ目であった。

その瞬間、数年前のある記憶が一瞬で蘇ったかのように思い出された。


その日は今とは別の路線を担当していた時であった。

ちょうど終点がとある高校と言う路線で、季節は受験シーズンの真っ只中であった。

駅から多くの高校受験者を乗せて終点まで着いた時だった。

全員降りたかと思ったが、最後部の座席にポツンと1人乗客が残っていた。

そこにはこの高校の受験者であろう、黒い艶のあるショートカットが印象的な小柄な中学生が気持ちよさそうに寝言を喋りながら寝ていた。


「きみきみ!

ここの受験者だろ?早くしないと試験始まっちゃうよ!?」


「ふぇっ!?

すすすすすみましぇん!!」


ようやく目覚めたが、出口までの間に口が全開であったのであろう鞄から参考書からその他色んなものが散乱してしまった。

仕方ないので自分もその片付けを手伝っていた時である。

たまたま床にある整理券が落ちていた。

発行部数がちょうど777番目と打たれたとても珍しいものであった。


「君、これから試験受けるんだろ?

これあげるよ。こんな発行部数の券俺でも見たことないよ

いい結果が出るように、頑張りな」


その時、彼女が一瞬頰を赤らめたかのように見えたのは気のせいであっただろうか。

「あ…ありがとうございます!!」




「君は…あの時の…」


「はい…私です…」


彼女はその後無事にあの高校に合格し、正にこれからと言う時期にこの事故にあったのだと言う。


「第一志望の学校に入れたのも、もしかしたらあの時の運転手さんがくれたその券のお陰だったのかなーなんて…

いつかお礼を言える日が来るかなと思っていたんですが…

できれば生きてる内にお伝えしたかったです…」

「でもこうしてようやくお伝えできたので、もう思い残すことはありません!!」


「また会えて嬉しかったです…本当にありがとうございました」

彼女の目元に光るものが見えたかと思うと、気付けば手元にあった小物入れも彼女ごと消えていた。


〜後日談〜


そんなファンタジーのような時を過ごしたかと思えば、今日もなんら変わらない1日を過ごしている。

こんな事他人に言えば、いわゆる階段話のストーリーテラーかとも言われかねない。

いつものように病院通いの老人を乗せ、街の小学校に通う子供を乗せた後は、ひたすら終点まで誰も乗らない空の車内…

のはずであった。


終点に着くと、最後部の座席には乗車してきたはずのない人影があった。


「君はいつまで居眠りしてるんだい?」


「えへへ…またきちゃいました」


憑かれるより付きまとわれた方がよっぽどマシだと思った、そんな平成最後のとある一日



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