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第58話 反逆者

 少々難しいことを考えていると、気が重くなって自然に溜息が出てしまう。

 なので私は気持ちを切り替えて、続いて彼らに話しかけた。


「それ程の正義感とやる気があれば、他国でもやっていけるでしょう。

 ……ですがノゾミ女王国には、もう必要ありません」


 この国に留まっても無知な民衆を扇動するなどして、ろくな結果にはならない。

 個人的に今すぐ出ていってもらいたいので私は宰相に命令を出そうとすると、公爵が大きな声を出す


「女王陛下! どうかお考え直しを! 正しき道を選んでください!」


 公爵が慌てて待ったをかけて、彼の仲間たちも思い思いに訴えてくる。

 しかし私は考え直す気はなく、冷めた表情で続きを口に出す。


「貴方たちは、己こそ正義と信じているのでしょう。

 ですが、正義は一つではありません」


 主義主張が異なる者によって、正義は形を変える。

 私と彼らでは大きく異なり、こっちは妥協する気はないので歩み寄るのは不可能だ。


「今回は残念ながら、相容れませんでしたね。

 しかし他国ならば、きっと貴方たちに共感してくれるでしょう」

「じょっ、女王陛下!?」


 公爵たちは、もはやどう足掻いても追放処分は避けられないと理解したようだ。

 真っ青になったり呆然自失だったりと、中には膝から崩れ落ちて泣き出している者もいた。


「現時点をもって、ノゾミ女王国民の資格を剥奪します」


 私は動揺する彼らの様子を冷めた目で見つめつつ、周りの兵士に向けて命令を下す。


「拘束しなさい」

「「「了解!!!」」」

「どうか! お許しください! それだけは!」

「嫌だ! こっ、こんな終わりなんて!」


 多勢に無勢で勝ち目はないからか抵抗しようとはせずに、頭を下げて命乞いしてくる。

 だが私は首を振り、無慈悲に告げる。


「貴方たちは己の正義に従い、反乱を起こす準備を整えてきました。

 ならば私たちも、ノゾミ女王国を守るために戦わねばなりません」


 はっきりと口に出すと、彼らは諦めたようでガックリと頭を垂れる。

 少しだけ可哀想な気もするが、これも国家の管理運営に必要なことだ。


 そして反乱の芽は花開く前に摘み取るに限るのだけど、公爵はまだ諦めていないようだった。

 一歩下がって心底残念そうに項垂れてはいるが、絶望はしていない。


「残念です。女王陛下なら、わかってくれると思いましたが──」


 やがて覚悟を決めたのか私を真っ直ぐに見つめて、次に周りの仲間たちに目配せし、大きな声で叫んだ。


「全員抜剣! 悪の女王を倒し! 自由を勝ち取るのだ!」

「「「自由を我が手に!!!」」」


 彼の叫びに呼応するように、民衆の中に潜んでいた刺客たちが一斉に武器を手に取る。


「きゃあーっ!」

「なっ、何だぁ!」

「助けてくれー!」


 当然のように、事情を知らない人たちは大いに混乱する。

 戦いに巻き込まれないようにと物陰に隠れたり、一目散に逃げ出したりした。

 だが公爵が用意した兵士たちは国立公園を取り囲んで逃げ場を封じ、さらに舞台の下の彼らにも武器を投げ渡す。


「はっはっはっ! 形勢逆転だ!」


 マジックアイテムは支配権を奪われるため、普通の武器を使っている。

 そして本体が確実に姿を見せる機会を利用し、国民だと足がつくので裏で聖国と手を組み密かに兵士を招き入れた。


 今は国民を人質に取って動きを封じており、本当に己の正義のためなら形振り構わないようだ。


 実際に彼らの計画は成功目前まで行ったと、外から見れば誰の目にも明らかだった。

 しかし私は呆れた顔で息を吐き、公爵に声をかける。


「形勢逆転? 何か勘違いしていませんか?」

「かっ、勘違いだと! どういうことだ!?」


 私は彼の質問に答えるために、護衛のフランクに目配せする。

 彼は静かに頷いてポケベルに命令を送り、さらに大きな声を出した。


「ネズミが罠にかかった! 全員! 反逆者を捕えろ!」


 すると民衆の中に紛れ込ませていたノゾミ女王国の兵士が、魔法剣を引き抜いて一斉に起動させた。

 実は国立公園に集められた市民の大半は、事情を説明した上で手配した人員だったのである。


「なっ、何だとぉ!?」


 公爵の演説に共感したり、逃げ惑う演技もなかなか上手かった。

 彼らは全く気づかなかったようで、大いに驚いている。


「わっ、罠だったのか!?」

「ええ、何も起きない可能性もありましたが、念のためです」


 私と公爵が話している間に、国立公園のあちこちで激しい戦闘が行われていた。

 だがこっちはフル装備で聖国の兵士は魔法効果のない旧式なうえ、数もノゾミ女王国のほうが多い。

 今では逆に完全に包囲されて、国立公園からはネズミ一匹逃げられなくなっていた。


「もし貴方たちが諦めずに反乱を起こせば、即鎮圧できるように準備をしておきました」


 魔法剣は暴徒鎮圧のために、パラライザーモードだ。

 たとえ民間人を装っている者を人質に使われても、痺れて気を失うが命に別条はない。

 しばらく病院のベッドから動けなくなるがきっちり補償は行うし、名誉の負傷だと割り切ってもらう。


 下手に躊躇して犠牲者を増やすよりは、死ななきゃ安いで済ませるのが吉だ。


「一つ一つ潰すのが面倒だったので、王都に集まってくれて助かりました」


 私が統治するよりも前に土壌に蒔かれていた反乱の種が発芽したが、一箇所に集まっているので刈り取るのは楽ちんである。

 失敗した場合の退路確保も含めて、この機会にキッチリと処理させてもらう。


 芋づる式に引っこ抜いてまとめて処分すれば、黒幕は捕まらなくても次からはより慎重になる。

 そして手引していた有力者は一人残らず片付くので、ノゾミ女王国への破壊工作は難しくなるだろう。


 そんな私の考えはともかくとして、公爵は剣を構えて青筋を立てて大声で叫んだ。


「おのれぇ! サンドウ王国を乗っ取り、私腹を肥やす悪女がぁ!」


 私が自己中心的な性格なことは知っているし、彼の言うことも一応は納得できる。

 けれど、ここは弁明させてもらう。


「確かにサンドウ王国はノゾミ女王国に併合へいごうされ、地図から消えました。

 しかし、私腹を肥やしてはいませんよ」


 私たちが話している間にも反乱軍は次々と捕らえられて、生き残った者たちは舞台の下へと追い詰められていた。

 今では公爵の周りに集まり、円陣を組んで守りを固めている。


 その様子を気にすることなく、続きを口に出していく。


「今一番欲しいのはのんびりくつろげる時間ですし、別にお金はいりませんね」


 無補給でも活動できるせいで欲求が薄いのか、美味しい物を少量食べれたら満足だ。

 あとは女王の責務から解放される、自由な休日が欲しい。

 精神耐性のおかげで仕事は辛いとは思わないが、別にワーカーホリックではないので何百年も働きたいとは思わない。


 ここで気になった私は、逆に公爵に尋ねてみる。


「貴方は聖国と手を組んで国王になるつもりでしょうけど、その後のことは考えているんですか?」


 彼はすぐには答えられないようで戸惑っていたので、私はもう少し詳しく説明していく。


「国王になったあとに、どのように国を治めて民を導くかですよ」


 私は基本的に行き当たりばったりだが、今日よりマシな明日を目指して未来を予測して統治を行っている。


 その点に関して、公爵は何かプランが有るのかと尋ねてみたのだ。


「そんなこと! 国民の自由を取り戻すに決まっている!」


 つまり公爵が国王になるか実権を握り、かつてのサンドウ王国と同じように統治するのだ。

 せっかくここまで文明を発展させたのに、また逆戻りする気らしい。

 私は呆れた顔で彼を見つめて口を開く。


「国民が前時代的な暮らしに戻るのを、本当に望んでいるとでも?

 一度私と貴方の支持率を、比べてみましょうか?」


 ポケベルを使えばネット投票は容易だし、全国生中継なので多くの国民が今の状況を知っている。

 どちらの支持率が高いかを比べてみるのも良いかもと思ったが、もし公爵に負けたら精神耐性があってもショックから立ち直るのは時間がかかりそうだ。


 そう考えると知りたいような知りたくないようなという思いはするけれど、悩んでいる間に彼らが行動を起こす。


「だっ、黙れ! 国民は皆、自由を望んでいる!

 悪女のせいで、口にできないだけだ!」


 そう言って公爵や彼の仲間たちは、一斉に剣を構えた。

 続いて舞台の上にいる私を目指し、勢い良く突進してくる。


 ここまで追い詰められた以上、逆転のチャンスはそれしかない。

 だがこっちには護衛部隊も控えているので、反乱軍を速やかに取り押さえようとした。


 しかし私は静かに手で制したあとに、意識を集中させる。


「フェザー展開!」


 出歩くときにはいつも持ち歩いているシールドフェザーを起動させて、反乱軍の残党を取り囲むように結界を張った。


「こっ、これは!?」

「出せ! 出しやがれ!」

「ちくしょう! ビクともしねえ!」


 たちまち彼らは狭い空間に閉じ込められて動きを封じられ、続けて私は護衛のフランクに指示を出す。


「フランク、あの中にパラライズグレネードを投げ入れなさい」

「了解しました!」


 フランクは疑問を抱くことなく、私の指示に従ってくれた。

 護身用のマジックアイテムを懐から取り出してスイッチを入れて、結界に封じられて身動きが取れない反乱軍に向かって投げつけた。


 球体の道具が放物線を描いて、狙い違わずに飛んでいく。

 結界を素通りして内部に入ると、眩く光って雷撃が無差別に広範囲の人々に襲いかかる。


 再チャージの時間を考えると一日に一度しか使えないが、その分威力は抜群だ。

 たちまち結界内は阿鼻叫喚となったものの、すぐに全員が気絶して動く者はいなくなる。


「反逆者を逮捕しなさい」

「「「了解!!!」」」


 シールドフェザーの結界を解除すると、すぐに大勢兵士が押し寄せて残りの反乱軍を捕縛していく。


 あとは情報を引き出して罰金や懲役や国外追放処分にするだけだが、せっかくなので聖国に送り込もうかと考えた。


 公爵やその仲間はノゾミ女王国民ではないので、あとは彼の国に面倒を見てもらい、誠に遺憾であると訴えておけば良いだろう。


 そしてまた一歩、ディストピア化が進んだ。

 現実にはこれが一番統治して運営ができるし、自分がトップに立っていれば青目のゴーレムを討伐や迫害は避けられる。


 ならばやはり世界が平和になるまでは、このままで行くのがベストなのだと思ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 病巣は取り除かないと。 回りに迷惑かけるからね。
[一言] しょせん、「旧王国派」でしたか。
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