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第52話 インターネット

 サンドウ王国がノゾミ女王国に併合へいごうしてから、二年の月日が流れた。

 魔物の増加も緩やかになり復興も一段落したし、百を越える分身体を遠隔操作もしていた。

 処理速度が上がって管理運営も軌道に乗り始めたので、片手間でも行えるようになる。

 おかげで仮想空間ではなく現実に戻ってこられたのは幸いだ。



 今は謁見の玉座にクッションを敷き、幼女なので微妙に長さが足りずに足をブラブラさせていた。

 そんな私の本体ではあるが、久しぶりに意識を戻したのだ。


 ブライアンが小型のノートパソコンを開いて画面の情報を読み上げて、真面目に業務報告を行っていたけれど、まずは試しに手足の指を軽く曲げてみる。


「では、次の報告ですが──」


 ほんの僅かな動きなので宰相は気づかないようで、報告を続けていた。

 意識しなくても感覚的に操作できて、本当に久しぶりに人間に戻った気がする。


 なので私は嬉しくなり、開放的な気分を味わうために両手を伸ばして大きく深呼吸をした。


「はぁー、現実に戻るのも久しぶりですね」


 今までは仕事は真面目に行ってきたが、私は政務の途中で玉座から飛び降りる。

 そして両足で絨毯を踏みしめ、軽く体をほぐす。


 宰相だけでなく他の臣下も戸惑っている。

 ちなみに側に控えている世話係と護衛は全く動じないのは、大なり小なり素を出した自分を知っているからだろう。


 女王としての顔しか知らない者は、ただただ驚くばかりだ。

 なお、サンドウ王国を併合へいごうしてからは後ろに陛下が付いたが、何でそうなったのかは良くわかっていない。


 けれど今はそんなこと関係ないとばかりに、真の意味で自由を満喫するために臣下たちに声をかける。


「申し訳ありませんが少し席を外します」


 謁見の間や執務室などの真下には、魔石工場がある。

 その場から動かないことが多いので、その間に上書き処理をしているのだ。

 しかし今は外出したい気分が強く、一時中断であった。


「どちらへ行かれるのですか?」


 臣下たちの中でいち早く平静を取り戻したブライアンが尋ねてきたので、私は少しだけウキウキしながら率直に答える。


「やりたいことは多々ありますが、まずは食事ですね」


 仮想空間でも食事はできるし、現実と変わらない味だ。

 さらに遠隔操作の分身体は毎食摂っているしたまに外食を行い、情報を集めている。

 けれど、やはり何か違うのである。


「今までは情報を食べていた感じですね。自分でも良くわかっていませんけど」


 我ながら何を言っているのか良くわからないが、とにかくこの機会に溜まりに溜まった人並みの欲求を発散したい。


 ちなみに本体だけでなく分身体も情報収集のために人間のように規則正しい生活をさせて、そこで得た経験はデータベースに蓄積される。

 効率的な処理速度や対応力などの向上が見込め、未来予測の精度を上げる役に立っていた。


(思えばこの二年はずっと、忍者漫画の分身修行をしてたみたいだなぁ)


 二年前の私では百体以上の分身体を一度に動かすには、仮想空間に意識を移して時間を停止させる以外はなかった。

 けれど今は現実に留まった状態でも、問題なく操作ができる。


 まあ非力な幼女なのは全く変わっていないが、一応成長しているのだ。


 それは置いておいて、話を最初に戻して大きな声で主張する。


「とにかく! 今は猛烈に食事がしたい気分なのです!

 わがままを言いますが! 一日だけでも外出させてください!」


 今回の仮想空間の体感時間は、百年を越えていた。

 いくら外の様子が見られたり分身体を遠隔操作できて、精神耐性があるとしてもいい加減に我慢の限界なのだ。


 宰相のブライアンを真っ直ぐに見つめて大きな声で訴えると、彼は驚いたあとに答えを返す。


「わかりました。では、政務は一時中断し──」

「いいえ。政務は続けます」

「「「えっ?」」」


 今の発言で臣下たちが戸惑う中で、私はさらに言葉を続ける。


「復興が一段落したとはいえ、仕事は山積みなのです!

 政務を休むわけにはいきません!」

「「「ええ~!?」」」


 臣下たちが、何言ってるんだコイツはという顔になるのも当たり前だ。

 なので私は、順を追って説明していく。


「皆にはノートパソコンを渡したと思いますが」

「はい、確かに女王陛下にいただきました。

 おかげで仕事の効率が飛躍的に上がり、とても助かっております」


 ブライアンだけではなく、他の家臣たちも頭を下げ始めた。

 だが別に感謝されるために彼らに与えたわけではないし、仕事の役に立っているなら何よりだ。


 突き詰めれば、民の生活を豊かにするために無料で提供している。

 ちゃんと成果が出ているなら、私としてはこの上なく嬉しいことだ。


 ここで私はコホンと咳払いをして、本題に入った。


「情勢も落ち着いてきたので、ノートパソコンのネットワーク機能を解禁します」

「女王陛下。ネットワーク機能とは、テレビやラジオに使われているものでしょうか?」

「その通りです」


 国営テレビやラジオは、私の能力であるネットワーク機能の一部を使用している。

 おかげでどれだけ距離が遠くてもタイムラグなしで、良好な通信状況を維持できるのだ。


 なので今回はもう一歩進めるために、ブライアンたちに説明していく。


「要はノートパソコン同士の遠距離通信魔法ですが、こういうのは実際に試したほうが早いですね」


 そう言って私は、世話係のレベッカを呼ぶ。

 続けて彼女から二つ折りノートパソコンを受け取って開いた。

 軽量化も付与しているため、自分のような非力な少女でも問題なく持ち運べる。

 続いて様々なアイコンが並んでいる中で、目的のモノをクリックした。


「この世界樹マークを選択すると」


 世界樹アイコンを起動すると、大きな木を背景にしたホームページが表示される。

 各地のニュースや天気などの情報の他にメールボックスもあるが、今はそっちには用はない。


「ブライアンを登録して、送りますね」

「えっ? はっ、はい」


 彼は今一つわかっていないようだ。

 前世でメールと呼ばれていた機能を使い、まずはブライアンのノートパソコンを遠隔操作で認証させてから、そのまま送信する。


 タイトルは試験中。本文は、ちゃんと届いてますかだ。


 臣下たちは自然と宰相のノートパソコンを覗き込み、私は世界樹マークを起動して手紙を開くようにと伝えた。


 彼は戸惑いながらもクリックしたようで、こっちにも既読が付いたので送った手紙が読まれたことがわかる。


「つまりネットワーク機能を使えば、ノートパソコンの所有者に自由に手紙を送れるのです」

「「「おおー!!!」」」


 前世ではメールと呼ばれていたが、こっちでは手紙のほうがわかりやすいと思った。


「当然、私にも手紙は送れます。

 本日の政務は、試験的にネットワークを運用しましょう」


 自分はノートパソコンは持っていないが、専用のデータベースがある。

 初期登録になっているので送受信には問題はないけれど、変なモノを送られても困るため検問は念入りだ。


(乗っ取られたり壊されるのだけは、絶対に阻止しないと)


 映画や漫画で定番の破滅パターンなので、警戒しておいて損はない。

 データベースやネットワーク機能は、私の生命線である。

 手を抜く気は毛頭なく、対策はしっかりやっておく。


「私以外に送信したい場合は、新規アドレス登録を使ってください。

 あとは、誤送信に気をつけるのも忘れずに」


 扱い慣れていない新しい機能なので、戸惑ったり誤送信する可能性は高い。

 そういう場合に備えてヘルプがあるので問題はないだろうが、一朝一夕では難しそうだ。


「あとはホームページで、ノゾミ女王国の様々な情報を知ることができます」


 世界樹マークを起動したあとに現れるホームページは、たった今作成したばかりだ。

 政府広報やノゾミ女王国の各地の天気、あとは大きなニュースやメールの送受信。

 さらにラジオが聞けてテレビが見れたりもするが、現時点の機能はこれだけだ。


 とりあえず、その後も私は皆に使い方を実践を交えて説明する。

 一通り終わった頃には、時刻は昼近くになっていたのだった。

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