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15話

今朝方、ちょっとだけ事故が起きた。


今日から侯爵様に頼まれていた事をこなす日が始まったのだ。

戦友の方たちを屋敷に呼び寄せて、古傷を癒す件だ。


私は結構やる気に満ちていて、早起きしてから軽く書物を読んでおいた。

怪我の具合による治療の過程を再度復習しておいたわけだ。

聖女ではないが、お金を貰ってやることだし責任を持ってやらないと。


軽く運動も済ませて、あまたもスッキリさせておいた。


運動をしたら汗をかいてしまう。

衛生面もしっかりしておかなくちゃいけないので、私は朝風呂に入ることにしたのだ。


使用人用の浴場更衣室で着替えているとき、下着も一応変えておこうと思った。

昨夜変えたばかりだったけど、思ったより汗をかいてしまったからだ。


自室まで下着を取りに行こうとしたのだけれど、既に服を脱いでしまっていた。

早朝だったし、面倒なのもあって、わたしはバスタオルを体に撒いて部屋まで走ることにした。


その道中で事故は起きてしまった。


なんと侯爵様用の浴場から侯爵様が出てきてしまったのだ。

しかも、なんと上半身裸で、タオルを肩にかけた状態でした。


眼福、眼福とかそんな事態ではない。

自分の横着で侯爵様にとんでもない失礼を働いてしまったのだ。


それなのに、私に向けられた言葉は謝罪だった。

「す、すまない!まさかこんな早朝に人が居るとは思っていなくて!」

「い、いえ!私の方こそ」

「そ、その、責任はとる!絶対に責任はとるから、何も気にすることはない!」

「は、はい!」


なんだか勢いよく返事をしたが、責任を取るってどういうことでしょう?

私が主に悪いというのに、謝罪ばかりされて、責任とやらまでとってくれるらしい。ラッキーといっていいのでしょうか?


それにしても、軍人さんらしく侯爵様の体は引き締まっていて、とても目によろしいものでした。

しっかりした肩幅と筋肉のバランスがよく……。この辺にしておきましょう。


それよりも、一つ。彼の胸にも傷跡を見つけた。

多分もう痛くはないのだろうけど、結構大きな傷跡だったので、ちょっとだけ心配してしまう。

うーむ、気になる傷跡だった。


そういう事故が今朝方起きてしまったのだ。

侯爵様は顔を真っ赤にしていたが、私の体に興奮したのだろうか?

確かに急いで下着を取りに行っていたので、胸元のガードは緩かった。結構見えていたかもしれないと、今さらながらに気づく。


あれだけ美男子で地位も持つ方なら、美女の胸など見放題だと思うのだけれど、私のでも顔を真っ赤にしていた。ちょっとだけ自信を貰えたりする。


自分の胸元に視線を落とす。

うん、まだまだ武器として使えそうね、と安心と自信を取り戻したのだった。



レンちゃんとお客様が来たのは昼過ぎだった。

今日のお客様も古傷を抱えた侯爵様の戦友だ。


彼も長いこと痛みを背負っていたようで、私の治療を望む方だった。

私としては断る理由はなく、侯爵様きっての頼みでもある。侯爵様に頼まれると、私は最近なんだか断れないのよね。むしろ頑張ろうとかやる気が湧いてくる。

レンちゃんにも何かを頼まれると断れないし、なんだか年下に弱いのかもしれない。


ということで、レンちゃんの勉強を兼ねての治療が始まった。

患者さんにとっては迷惑かもしれないが、私の治療は時間がかかる。


なにせ相手を知り、思いが強くならないとあの白い神秘的な魔力が出てこないのだから。

普通の治療はレンちゃんに任せた方が実は効果が高かったりする。


「レンちゃん、ここはこうで、これで、こう!」

「うむ、わかりやすい」

「わかりやすいか?」


侯爵様が傍にいて、何かツッコミをしているようだけれど、私の教育方針に疑問があるようですわね。

ふふっ、このわかりやすさがわかないとは、侯爵様も案外理解度が低いのかもしれません。


「ルカねえ、ここはこうで、こうだよね」

「そうそう、理解度高いねー」


そうやって指導していくうちに、レンちゃんの魔力もいつの間にか白くなっていた。

しかし、安定はしておらず、強い魔力でもない。でも確かにあの時見たような神秘的な魔力をレンちゃんも持っていたのだ。


「レンちゃん!やっぱりあなたって子は!」

頭をよしよしして褒めちぎっておく。かわいくて出来のよい教え子は褒めるに限る。


「うむ、ルカねえのおかげ」

謙遜するとこもかわいい。


「そういえば、強い魔法を使う者の傍にいると、似た才能を持つものが刺激されて才能を開花させることがあると聞く」

「たぶん、それ。ルカねえの影響を受けているのを感じる」

「はい?」

二人の視線を浴びるが、私はなんだかよく状況を理解していない。


強い魔法を使う者って私のこと?


つい先日まで自分の才能が枯れたとばかり思っていたのに、侯爵家に来てからは褒められることばかりだ。

やはり恥ずかしい。

特にこの二人から褒められるのは、なんだかとても照れ臭いのだ。嬉しいのは嬉しい。本当に何よりも嬉しいけど、そんな素直に喜びを表す年齢でもないので、ニコリと笑ってごまかしておいた。


今日のお客様は、傷跡がそれほどひどくなかったことと、レンちゃんの覚醒によって、なんと私の出る幕がなかった。

教え子の教育の一環で完治させてしまったのだ。


なんという天才。

レンちゃんはもうすでに聖女の器なのかもしれない。


回復魔法の使用後の説明もあったが、すべてレンちゃんに任せておけば良さそうだと思った。

私は他のことをやるべきだろう。


お客様とレンちゃんも今日は泊っていくこととなった。

最近は聖女の仕事とレンちゃんの家庭教師の仕事があって、侍女としての仕事が少し手抜きになっている。


それでもやはり洗濯物は好評みたいで、どうしても私に洗わせたいみたいで洗濯は毎日しているものの、室内の掃除はやれていない部分が多い。窓を拭くのだってやれていない。


そんな負い目もあって、ちょうど食材が足りなかったので、買い出しは私が行くこととなった。侍女長は気にしなくていい、聖女様としての仕事の方が大事だと言ってくれたが、私は聖女様ではない。いずれはそうなりたいと思っているけれど、今はただの侍女だ。


今できること、やるべきことを全部全力でやるのが私のモットーだ。

それに反することはしたくない。


レンちゃんが泊っていくのは、侯爵様とレンちゃんの間になにやら噂が立つのではという侍女長の懸念もあったのだが、当の本人たちは一切気にしていなかった。


「俺は別に気にしないが、レンカ殿は気にした方がいいかもな」

「いえ、全然気にしないけど」


と、いつものマイペースっぷりを発揮してくれていた。

私はなんだかそのやり取りがおかしくて、嬉しくて、軽い足取りで買い出しに行けたのだ。



王都の市場は広くて賑わっているのだが、侯爵家や貴族家を相手にできる商店は少ない。

大手で信頼できる商店しか利用することを許されていないのは、侯爵様の口に入るものだから責任の所在を明らかにするためだ。


侯爵家に食材を売るって言うのは、儲けがいい反面リスクも大きいのだなとしみじみと思う。

侯爵家がいつも利用している商店へと脚を運び、私は要件を伝えた。

気軽に対応してくれたお店の方は礼儀の正しく、話しやすい方だった。


「なるほど、来客が増えていつも配達している分では足りないと。それでわざわざ侍女のお方が来て下さったのですね」

「はい、数日間お客様が増える予定ですので、明日からの配達分も増やしていただけますか?」


侯爵家くらいになると食材の買い出しなんてあり得ない。

今日は特別こうして来ているが、普段はすべて商店側の責任で配達してもらうのが常となっている。ハーパー伯爵家でもそうだった。


こうやって突然の来店でも対応してくれる辺り、とても良心的な店だ。

評価ポイントを上げておく。


「全てかしこまりました。そのように手配しておきます。今日の分もすぐにご用意いたします。配達の者に一緒に送らせましょう」

「あら、ご丁寧に」

また評価ポイントを上げておく。


個人的にも利用したくなるお店ね。

食材の質も良くて、値段はその分割り増し感があるわね。でもいいお店。覚えておこうっと。私、将来は一人暮らしするから、ちゃんといい店の一つや二つ覚えておかなくちゃ。

これも自立への第一歩だ。


「ありがとうございます。でも結構ですよ。食材も一人で抱えきれる量ですし、ゆっくり歩いて帰ります。久々に街を散歩したい気分ですので」

「そうですか。ご配慮助かります」

なんとも気分の良いショッピングを終えて、私はゆっくりと歩いて帰る。


王都の街にも慣れておかないと。

2か月後には一人で生き抜かなければならないのだ。この年齢で何も知らないっていうのは、流石に危なすぎる。

住みやすいところも、少し見ていこうかしら。


そう思って人気の少ない道も散策している時だった。

後ろを歩く男性が、先ほどからずっと同じ道を歩いている気がした。


流石に勘違いだとは思うけど、警戒するに越したことはないわね。

少し駆け足で大通りに戻ろうとした。

家を探すのなんていつでもできるし、そろそろ日も暮れちゃう。暗くなる前に帰らないと。


後ろを気にしながら駆け足で進んでいると、前方不注意で人にぶつかってしまった。

「いたっ。ご、ごめんなさい。少し急いでて」

落ちた野菜を拾って、紙袋に収めた。

ふーふーして砂も払っておく。


「いいんだぜ。こっちはあんたに用があるからな」

「はい?」

目の前のガラの悪い男性が私の行き先を塞ぐように立ちふさがる。


後ろを歩いていた男性が私に追いつてきて、挟まれるように、行き場所を失ってしまった。


「大人しくついてくりゃ、痛い目見なくて済むぜ?」

「と、通してください」

「おっと!」

後ろから強引に口を塞がれてしまった。


その力強い腕に抗う術もない。

叫ぶこともできず、強引に連れ去られる。

紙袋が落ち、野菜が辺りに散った。


二人組に、私はまんまと攫われてしまった。

ああ、なんでこんなことに。

最近良いことばかりあったからかしら。

もしくは、私の胸が罪深いのか!?


侯爵様をも魅了したこの胸が、魅力的過ぎたのが罪だと言うのかあああ!!


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