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14話

「レンちゅわああああん」

「ルカねえええええええ」

「れんちゅわああああん」

「ルカねえええええええ」


運命に引き裂かれた私とレンちゃんの運命は、今再びこうして結びつくこととなった。


レンちゃんを抱っこしてくるくると振り回す。

久々のレンちゃんは、服にちょっとだけ皺が寄っていた。


「レンちゃん、なんだか服がヨレヨレね」

「うむ。ルカねえいないから、洗濯物ゴワゴワ、家もなんか汚い」

「あらら」

伯爵家の侍従の人数は決して少なくない。むしろ侯爵家と比べて多いはずだ。


たったの1週間でそうなってしまうとは、なんという怠慢。もしくはイザベル様の癇癪が他の侍女に向いてしまったのだろうか。そうならとても可哀想だ。仕事どころではないわな。


「ルカねえに戻ってきて欲しいけど、ここでの生活が良さそうだからやっぱり戻らないで」

どうしてここでの生活が良いかわかったのかしら。

確かに良いのだけれど。


「結構良くしてもらってるよ。見てわかる?」

「うむ、栄養が行き届いている。肌と髪の艶でわかる。なんか可愛くなった」

お姉さんを褒めてくれるなんて、良い子ねー。相変わらず愛すべき存在だ。

ご褒美によしよしして、頭を沢山撫でておいた。


レンちゃんが来ることは事前に許可をとっている。

ゴレさんの治療後に侯爵様から快諾して貰った。


今日から週に3回ほどレンちゃんを預かることとなっている。

レンちゃんは聖女になれる器だ。その才能を無駄にする手はない。

試験が近づいており、今は追い込みの時期なので、時間は無駄にできないのだ。


今日もいつも通りの勉強に入ろうとしたけど、その前に最近の私の目標と成長を彼女にも共有しておきたくなった。


「レンちゃん、実は最近大きな心変わりがあったの。聞いてくれる?」

「うむ」

「私も今年の聖女試験を受けようと思うの。夢ができたから」

「うむ。既に私のと一緒に申し込んでる」

「うんうん、そうだよね。ちょっと難しいかもよね・・・はい?」


レンちゃんは今なんと言った?

どこかの芸能事務所におばあちゃんが勝手に申し込んだ的なことを言わなかったかしら?


「ルカねえの才能は私が一番知ってる。だから、受けさせるつもりだった」

「ええ、そんなことしてたの!?受験料とか手続きとか、大変だったんじゃないの?」

「そのくらいうちの馬鹿父になんとかさせた。以前馬鹿父から正規の家庭教師をつけられそうになったけど、全力で断った。聖女になりたいのに、3流から指導を受けたくない。ルカねえという奇跡が目の前にいるのに」

そんなことが裏で起きていたとは。

レンちゃん、大好きだ!


レンちゃんがずっと私の評価が高かったのって、既に力を見抜いていたからってこと?

流石の慧眼。恐れ入ります。

侯爵にせよ、レンちゃんにせよ、二人は私以上に私を分かってくれている。


「でも、イザベル様が私の回復魔法は平民専用だって言ってたじゃない?レンちゃんは信じてなかったってこと!?」

「うむ。そんなわけない。でも理由はわからなかった。なぜ安定してあの奇跡のような白い魔力が出てこないのか不思議だった」


やはりこの子は頭がいいんだなと思い知らされた。私が当然として受け入れていた情報に疑問をいただいていたようだ。

侯爵様は経験値によってその解答を導き出していたが、レンちゃんにも近い世界が見えていた。

もう一回、この出来の良い子をよしよししておく。


侯爵様から頂いた答えと、ゴレさん一家との出来事を説明した。

私の思いの強さが魔法に大きく影響することを。稀にそういった使い手がいることを。

その話を聞いて、レンちゃんはすごく納得がいったみたいだった。


「うむ。侯爵め、私より先に答えを見つけるとは、むかつく」

侯爵様に嫉妬するレンちゃんも可愛い。

「ルカねえはやっぱりすごい……」

なんだか真面目な顔して、レンちゃんが私を見つめてくる。


「ハーパー家は碌でもない一家。馬鹿父と嫌味な義母にアホイザベル。けど、あそこにはルカねえがいた。それが私の人生最大の幸運。ルカねえ、侯爵家に行っても私を見捨てないで」

なんていう健気な視線なのでしょう。


全部知っているようで、実は知らないことばかりだった。

レンちゃんが実は内心でそんなことを感じていたなんて。

1週間放置して、レンちゃんを不安にさせてしまったようだ。


私は笑顔で返事をする。


「何言ってんの。私こそレンちゃんが必要なんだから。一緒に聖女試験に受かって、これからも私たちはずっと一緒よ」

「うむ!」


無事に再開を喜び会って、私たちは真面目に勉強に入った。



二人きりになり、回復魔法の練習中に集中していく。

途中、昼食の差し入れあり、とても美味しく頂いた。

夕食もレンちゃんに食べていくように勧める。


伯爵家で嫌な面々に囲まれて食べるより、こっちで食べて行ったほうが絶対に美味しい。それに、侯爵家の料理は単純にクオリティが高いのだ。素材よし、技術よし。

お腹も心も膨れること間違いなしである。


私がレンちゃんの家庭教師をしている間、他のみんなに仕事の皺寄せが行ってしまうが、誰も不満を口にはしなかった。

私はその気持ちが嬉しくて、明日からまたより一層働こうと決めた。

ここにいられるあと2ヶ月間、全ての仕事を私がやるくらいのつもりで行こう!


家庭教師の休憩中、レンちゃんに少し相談してみた。


最近の自分の気持ちが少し不安定なところと、侯爵様の態度の真意を。聡いレンちゃんなら正しい答えを出してくれるはずだ。

私のこの謎の気持ちにも整理をつけたい。

侯爵様が悪いことを企んでいるのなら、早めに手を打たなくてはならない。


私の頼れる名探偵レンちゃん、答えを教えてください。


「うーん、好きなんじゃね?」

「はい?ないない。それだけはない」

全く、1週間会わないうちにレンちゃんの勘が鈍ってしまった。伯爵家の人たちは何をしているのか。服がゴワゴワして、室内が汚いからレンちゃんの思考も鈍っているじゃないか!


「侯爵はルカねえが好き。ルカねえも侯爵が好き。その気持ちはそういうことじゃないかな」

「あり得ないかなぁ、どちらも」

やはり問題は難しいみたいだ。

レンちゃんでもズバッと正解が出てこないとは。


「イザベルや侍女たちはルカねえのことを侯爵の生き別れた姉じゃないかと話してた。私は違うと否定したけど」

生き別れた姉か・・・。

確かにそれだと侯爵様の優しさを説明できる。

けれど、残念なことにそんな記憶は一切ない。


母が亡くなって義母と悪女の妹はできたけど、あんなイケメンの弟を忘れるわけもなく。

レンちゃんが否定した通り、その説はないわね。


「イザベル、あんなことがあったのに、まだ侯爵を諦めてない。哀れ」

「根性あるー」

舌を凍らせて砕いてやろうか!みたいなことを言われたのは未だに鮮明に覚えている。

明確な殺意まで向けられたのに、それでも諦めていないとは。彼女の執念だけは見習ったほうがいいかもしれない。


結局、侯爵様の優しさは理由がわからなかった。

あのレンちゃんでもわからないとは、侯爵様は随分と策士のようだ。

私のモヤモヤした気持ちもしばらく抱えていくしかなさそうだった。


「ところでレンちゃん。お金を稼ぎながら、回復魔法の勉強もしたくない?」

「うむ。ルカねえ、かつてないほど生き生きとした目をしている」

「あら、そうかしら?ふふっ」


侯爵様に頼まれている件を、レンちゃんの勉強と結びつけるとは、私の頭脳も案外捨てたものじゃないわね。

ハーパー伯爵は今の奥様に入れ上げて借金まみれだ。そんな人を救う義務も義理もないけれど、レンちゃんは別だ。

レンちゃんにも個人的にお金を持って欲しい。彼女も夢ができたときにすぐに動けるように、それに嫁入りのお金も貯まったら最高だ。

レンちゃんの未来は私が輝かせるのよ!


侯爵様から頼まれた一件は、こうして頼もしい助手を得ることに成功した。

また明日から心強く行ける気が知る。


レンちゃんが近くにいると、私の回復魔法はいつだって効果が増加されていた。

不思議なものだなと思っていたけど、レンちゃんがいることで私がリラックスできていたからだと思うととても納得がいく。


なるほど、これは頼もしいパートナーを得たわけだ。

自分のことをより知ることで、傍にいる人たちの大切さを確認できるいい日となれた。

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