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「軍団長、最近、懇意にしてる方がいるみたいっすね」
キラッキラと目を輝かせてくる部下にラディムはまぁこうなるよなとは思った。度々、女性の格好をしたサシャと逢瀬を重ねていれば、自ずとそうなる。わかっていたことだが、戸惑うのは自分ばかりでサシャは平静だった。
「軍団長は独身男性ですからね。一人二人いてもおかしくないでしょう」
「いや、そうっすけどね。学生時代に流した浮名が復活するんじゃないかってみんな言ってるんで」
「へぇ、浮名ですか」
「待て、ザオラル、ほんと待ってくれ」
「僕は何も言っておりませんよ。えぇ、言っておりませんとも」
さ、仕事をしてください、仕事をと机の上にどさりと山のように積まれる書類。部下はそんな二人の空気に気づかず、ザオラル補佐官もモテそうスねなどと言っていた。
「さ、君も仕事に戻って。いくら軍団長がフレンドリーでも公私はしっかり分別してくれ」
「さーせんした」
そう言って、走り去った部下に言葉遣いの訓練が少しばかりいるかなと苦笑いをこぼす。
「あ、あのな、サシャ」
「浮名については気にしてないのでお気になさらず」
「いや、あの、懇意にしてるのは君だけだからな。本当に君だけだから、他にいないからな!」
「別に僕は貴方に返事もしてないので、好きにされてもいいんですよ。それに浮名を流したと言う時に付き合った女性たちとも僕はタイプも全て違うでしょうし」
オドオドと声をかけるラディムにサシャはにっこりと笑ってみせる。けれど、ラディムにはそれがどこか無理しているように思えてならなかった。それと同時に嫉妬してくれているのではないかと淡い期待も抱いた。
「それでは、僕は訓練がありますので」
「あ、ああ、怪我のないように」
「失礼します」
そう言って、去っていったサシャ。訓練所はすぐ階下にあり、ラディムは窓からそれを眺めた。けれど、すぐに頭を抱えることになった。
「彼らは同僚であり、部下だ。そう、ザオラルのサシャの恋人ではない」
剣を交わし、笑い合うサシャと部下たちに見るんじゃなかったと思ってしまう。けれど、それでも目を離すことはできなかった。