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ジャプカ侯爵家。そこがサシャの生家である。父は侯爵であるズビシェク・ジャプカ。母はザオラル家から嫁いだイルジナ。その二人の間にサシャは長男として生まれた。
「いや、待ってくれ、長男って、君は」
「軍団長、それをこれから説明いたしますので」
「そうか、そうだな、すまない、続けてくれ」
ジャプカ侯爵家は狂っていると影で言われることがある。その理由は“公爵”という地位に執着しているためだ。ジャプカ家の成り立ちは遥か昔王族から降った王子だという。そして、当初は勿論公爵という地位を与えられた。けれど、国の法律でそれは三代までの地位。血筋的にも王族から遠くなる四代目以降は侯爵に格下げされる。四代目は公爵という地位に誇りを持っていたそうだ。けれど、彼が当主になると侯爵。格が下がってしまった。それがどうにも許せなかったらしい。その代以降、当主は取り憑かれたように王族を迎え、公爵に返り咲くことを夢見た。けれど、運が悪く、王族もジャプカ家も男しか生まれない。夢は次第に狂った呪いへと変わっていった。母イルジナの生家は女系一族と呼ばれている。そのため、父ズビシェクはそこに目をつけ、イルジナを嫁として迎え入れた。
「母は父に『必ず娘を産め』と言われたそうです」
あまりにも娘をというズビシェクにイルジナはジャプカ家のことを調べた。古くから仕える使用人にも尋ねた。そして、娘を産んではいけないと至る。娘を産めば、娘は幸せになれないだろうイルジナはそう考えた。
「幸い、出産の時は父は不在。まわりには共謀者しかいませんでした」
故に偽ることなど簡単にできた。しかし、サシャが成長すれば露見してしまう可能性がある。イルジナは学生時代の友人や生家であるザオラルに協力を求め、今に至るまでサシャの性別が漏れることはなかった。
「そういうことか、しかし――」
「姓が違うのは何故か、でしょう。それはザオラル家に養子に入ったからですね。まぁ、隠しておくことでもないですし、お話しておきましょうか」