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 数年後。ザオラル邸の庭は騒がしかった。


「お姉さまが、かっこいい。あたし、死んでもいい」

「頼むから、死なないでくれ。僕が寂しいじゃないか」

「はい、逝きます! あ、違った、生きます!」


 元気よく手を上げるのは幼女から少女になった義妹。そんな義妹にサシャや同席しているアネシュカは苦笑いを浮かべる。


「いや、でも、ヨラナの気持ちもわかるわ」


 女子会というの名目のもと、アネシュカ、ヨラナ、サシャは集っていたのだが、サシャはヨラナの要望で補佐官の姿で参加していた。現役で補佐官をするサシャは少なからず女性人気が高い。以前ほど髪は短くはしてないとはいえ、軍服姿のサシャはドレス姿のサシャと違い、中性的で麗しいのだ。それに男性ではないのだから、二人きりで擬似恋愛がなどという婦人たちもいるのだとか。


「叔父様も大変ね」

「ん? 何がでしょう?」

「いーえ、なんでもありませんわ」


 首を傾げるサシャにアネシュカは笑ってみせる。思えば、兄は枕を涙で濡らしたとか侍従が言っていてたわねと思いながら、サシャは罪深いわと溜息を零す。


「そういえば、聞きまして?」

「何をでしょう?」

「ジャプカ伯爵家のこと」

「あぁ、ラディム様から伺ってますよ。領地をさらに縮小されたそうですね」


 今回の決議でそう決まったと教えてもらったとサシャは告げる。ジャプカ伯爵家はあの後、衰退の一途を辿っている。段々と領地が目減しているのは勿論、我儘娘であるディタの嫁入り先は見つかっていない。さらには使用人たちも次々にやめていったのだとか。一応、ラダは懐妊したしたようで血が繋がる喜ばしいことであろうが教育がどうなるかは不透明だ。むしろ、不安しかないだろうとはラディムの言葉だったか。


「いっそのこと、返上してしまった方がいいのではと思ってしまうわ」

「今更返上できないのでしょう。それに平民になってあの方らがまともに生きれるとは思いませんね」

「まぁ、そうなのだけど」

「なんの話をしていますの? あたしにも教えてくれますか?」

「きちんと学び、堅実に生きていこうかという話だよ。それより、学園生活はどうだい?」

「学園ですか、学園は楽しいですね」


 いろんなものに興味があるのだろう、次の学年から選択できる教科をあれもこれもいいと楽しそうに語るヨラナ。それにアネシュカとサシャはこれはああだったな、それはあれねとヨラナにもわかりやすく説明していく。


「まーーー!」

「あら、おかえりですわね」

「あぁ、そうみたいだ。それじゃ、僕は先に失礼するよ」

「はい、お姉さま、また後日」


 サイレンのように響いた声にアネシュカはクスリと笑い、サシャは苦笑いを零しながら、立ち上がる。またねと髪型を崩さぬようにヨラナの頭を撫で、歩いていった。


「いいな、あたしにもいい旦那さまできるかな」

「ヨラナにもいい人がきっと見つかるわよ」


 母親に手を体を伸ばす幼児を片腕で支え、笑顔で妻を迎える夫。そんな家族を見つめ、ボソリとヨラナは呟く。貴族であるから、政略結婚の可能性もある。けれど、やはり姉や兄のように温かな家庭は築きたいな、そんな気持ちがあった。大丈夫よとアネシュカがそう言っていると夫であるヴァシィルが二人を迎えに屋敷から出てきた。


「姉上はもう帰ったんだね」

「えぇ、叔父様が迎えに来てたわ」

「全く、あの人は」

「どうせ、サシャを迎えに来たくて早退したんでしょ」


 お帰りなさいと抱きついてきたヨラナを受け止めながら、姉の姿がないのにすぐ気づく。それにアネシュカが説明すれば、苦笑いが零れる。ラディムはサシャを妻に迎えてから早退数が増えた。それはもちろん、妻を迎えに行きたくて。仕事はきちんとすませているのでそう煩くは言われていないが、たまに苦言がヴァシィルに飛んでくる。


「まぁ、姉上には報告しておこうかな」

「あーあ、叔父様、怒られるわね」

「ラディム様が怒られるのですか? なぜですの?」

「さぁ、なんででしょうね」


 ラディムとサシャの職務を知らないヨラナは首を傾げるけれど、アネシュカはその答えを言わなかった。

 後日、ヴァシィルのところにはラディムからできれば内密にしてくれと伝言が届くことになる。





「また、早退したのですか」

「あ、や、だって、サシャが心配で」

「僕は関係ないですよね。それにこの子まで連れ出して」

「あ、う、すいません」

「迎えに来てくださることも、心配してくれるのも嬉しいですが、貴方たちに何かあったら僕の心臓が保たないのですからね。その辺、きちんと理解しておいてください」

最後まで読んでいただきありがとうございます。ほんとは、それほど長くなる予定ではなかったんです。なかったはずなんです。

すっ飛ばしたことも多いのでもしかしたら、おまけとばかりに追加を更新するかもしれません。しかし、とりあえずはこれにて完結とさせていただきます。


与太話として、イルジナは他の令嬢がズビシェクの毒牙にかからぬように自ら飛び込んだわけです。ただ、彼女自身も誤算であったのがあまりにもズビシェクが公爵という地位に固執していることでした。先代や先先代はあわよくばと思っていたところもあり、きちんと嫡男は勿論子供たちに教育と愛情を注いでいました。なので、無難な運営が行えていたのですが……。

また、カシュパルとイルジナは幼馴染ですが、イルジナを愛していたという設定を入れようとして、あ、これは拗れると思って消去しました。ダヌシュカが親友だから余計に拗れますね!ちなみにイルジナ自体はさっぱりしているので、愛してると言われても「あら、そう、ありがとう」と礼をいうだけでしょう。


登場人物の設定メモ

サシャ・ザオラル:主人公。補佐官。本当は女性であるが、母から男として育てられる。侯爵家の異常性を知っている執事や侍女、弟、叔父家族、果てには国王によって、うまく隠蔽され続けた。身長は高く男性の平均ほどある。プラチナシルバーのベリーショート。目は金色。可愛いのや綺麗なのに憧れがある。

ラディム・クンドラート:歳の離れた王弟。クンドラート公爵。軍大将。ハニーゴールドのツーブロ。目は紺碧色。

ディタ・ジャプカ:サシャの腹違いの妹。ズビシェクに溺愛され、ワガママ娘に。王子を追いかけるも、王子には迷惑がられている。

ヴァシィル・ザオラル:サシャの弟。兄を姉と知る一人。

ズビシェク・ジャプカ:サシャの父。侯爵。公爵になることを望む。狂い気味。

アレシュ・ザオラル:サシャの叔父。後に養父。侯爵。姪のために奔走する。

イルジナ・ジャプカ:サシャの母。故人。アレシュの妹。サシャに女であることを秘密にするよう言い聞かせていた。自分が悪く言われようが気にしない。

ラダ・ジャプカ:ディタの母。後妻。

カシュパル・クラマーシュ:国王。イルジナとは幼馴染。

マトゥーシュ・クラマーシュ:第二王子。ディタに追われている王子。

オリヴェル・クラマーシュ:第一王子。

アネシュカ・クラマーシュ:第一王女。ヴァシィルとは幼馴染。

ダヌシュカ・クラマーシュ:王妃。イルジナとは幼馴染で親友。

ルツィエ・ザオラル:叔母であり養母。


少しでも楽しんでいただけたら幸いです。最後まで、お付き合い、ありがとうございました。

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