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「すでに一部の貴族たちは加わっていたので知っているだろう。ズビシェク・ジャプカ侯爵よ、本日をもって伯爵へと降爵とする。褫爵(ちしゃく)せぬだけよかろう。()はしてもよかったのだがな」

「な、ななななぜ、なぜ、私が降爵されねばならぬのです! 我が家は王家の血を汲んでおります!」

「王家の血を汲んでいると言ってもそれが有効なのは数代前まで話であろう。そもそも、王家の血を汲んでるからなどと関係なく、領地経営もまともにできておらぬのだ、当然の評価であろうとも」


 学園で学んであろうと貴族の基本をカシュパルは口にする。臣籍降下した際に得た公爵(地位)は三代まで、それ以降は降爵。そして、全貴族と同様に数年に一度、評価が見直される。それは当然ながらそれにより陞爵される貴族がおれば降爵される貴族もいる。領地経営が上手くいっていなければ、領地を削られることもある。それは貴族にとって当然であった。であるから、領地経営を堅実に行こうとするものもいれば、力を入れるものもいるし、領地にとどまらず新たな道を模索するものもいる。それらは王を含めた複数の族派代表たちによって採決が行われる。


「今までのジャプカ侯爵はそれなりの評価を維持しておった。むしろ、先代が維持した領地を守ろうさえしていた。しかし、お主はどうだ? イルジナ亡き後、お主の領地から陳情ばかりが増えた。調査をしてみれば、その通りであったわけだ。何度かお主には経営を見直すように書面が届いているはずだ。けれど、その改善はついぞされた様子はなかった。そうなれば、評価は下げるほかないし、領地も減らす必要があるであろうな」

「そんな、そんな馬鹿なことが」

「今現状、広々とした領地を運営ができておらぬのだ、当然のことだろう。せいぜい、うまく領地経営をできる婿を探すことだな」


 王子と結婚させることもできず、侯爵から伯爵に落とされ、絶望するズビシェクにラダは今まで通りの生活ができるますよねと縋り付いている。ただ、ディタだけは意味がわかっていないのだろう「お兄様、ずるいです」などと言っている。


「ずるいも何も僕は君の兄じゃないし」

「お父様の子供でしょう。だったら、私のお兄様よ」

「目が同じ()ってだけだろ」


 同じ色の目ならいくらでもいるとヴァシィルはディタにいう。その言葉の意味がわからないらしく、ディタは眉を顰め、唇を尖らせた。しかし、その言葉の気づいたズビシェクは乱暴にディタの顔を覗き込む。痛いと悲鳴をあげるディタだが、ズビシェクは気にしない。そして、事実に気づくとディタを突き飛ばし、縋るラダも同じように床に叩きつけた。


「さ、サシャ、戻ってくれ」

「ふふ、お断りします」


 縋るようにサシャに手を伸ばすが、ラディムがその手を払い、サシャは笑顔で断る。


「だって、ジャプカ侯爵いえ伯爵にとって、(わたくし)たちは不要な子ですもの。だってそうでしょう。例えば、(わたくし)がちゃんと男性であり、ディタが王子と婚約ができた場合、(わたくし)はどうなるのでしょう。ほら、不要でしょう。何も与えられず、家を追われるでしょう」


 (わたくし)たちの教育を手配してくれたのは母でした、使用人たちでした、決して貴方ではなかったとサシャは告げる。愛情を向けないどころか、存在自体を気にしたこともなければ、あったかもしれない未来を考えたことはないだろうと突きつける。


「そ、それは例えばの話で」

「そうですね、例えばの話でしょう。けれど、(わたくし)たちの中では起こりえた未来です。ですから、自分達で未来を切り開くのも当然のことでしょう」


 その(わたくし)たちの未来にあなた方はいないのですと言うと、ラディムに行きましょうと伝え、カシュパルの後ろに下がる。


「伯爵、離縁は許さんぞ。せいぜい、その妻と子を抱え、頑張ることだ。まぁ、血の繋がりを気にするならまだ遅くはないだろう、励むと良い」


 どこかの侯爵は遅くに子宝に恵まれたようだし、先代の国王も晩年に子を残せたのだからなと。


「あぁ、そうだ、場を濁してすまぬな。その代わりと言ってはなんだ、我が王家からとクンドラート公爵家から秘蔵の酒と料理を提供させてもらおう」


 先程のまでの空気を払拭するように言ったカシュパルが手を挙げるとすでに用意されていたのだろう、扉の向こうから次々と滅多なことでは口にすることのできない料理や酒が運ばれてくる。途端に皆の関心はそちらに揺らぎ、先程までの出来事は口を噤んだ。料理や酒を口にしていけば、次第に場は賑やかに変わっていった。

 会場の一部では女だと知らなかったんだがと三人の殿下から詰められる姉弟とその姉にはさらに学園の知り合いだって言ってたよな、なんで嘘ついたと無言の圧力をかける夫がいた。

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