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「親を謀るとはどういう了見だ!」
響いた声に貴族たちは道を開ける。そして、現れたのは当然ながら、ズビシェク・ジャプカ。サシャの実の父だった。
「偽ってはおりましたが、謀ってはおりませんでしたよ」
「お前が女だとわかっていたら、養子になど出さなかった」
「そんなこと知りませんよ。だって、ジャプカ侯爵様は私たちに興味なかったではありませんか。少しでも、親の情を持って接してくださっていれば、違和感に気づき、知ることになったでしょう」
本来、令息には侍従が付けられていたはずだ。それがサシャにはなかった。代わりに侍女が付けられていた。月に一度具合が悪い時期がある。身支度に時間がかかる。どんなに暑くても肌を露出することはなく、首元まできっちりと服を着込んでいる。そして、いつも手袋を嵌めている。
「それから、本来は陛下からお言葉をもらうのが相応しいのでしょうが」
「構わぬ、お主は姉であるから、お主の口から皆に告げよ。ついでにアレも伝えてくれ」
「かしこまりました。それでは、ヴァシィル・ザオラル。こちらへ」
姉に呼ばれ、卒業者でもあるヴァシィルは道を譲られ、前に出た。サシャと笑みを交わし、彼女に背を向けると、背筋を伸ばし直立。そんな姉弟の姿に微笑ましく思うよりもザオラルという姓に皆は驚く。ザオラル家への養子はサシャだけだったのではないかと。
「この度、我が弟、ヴァシィル・ザオラルと第一王女でありますアネシュカ・クラマーシュ様が婚約したことをご報告申し上げます。また、王女殿下の降嫁に伴いまして、彼が後を継ぐ際にはザオラル侯爵よりザオラル公爵へ陞爵となります」
「ヴァシィルは養子には出してないぞ」
「何を言ってるのでしょうか。ちゃんと貴方様の署名で私たちの書類は提出されております」
声を荒げるズビシェクにサシャは不思議ですねとくすくすと笑う。
「そうだとも。それに、私はきちんとジャプカ侯爵には申しましたぞ。『妹の忘れ形見である長子を、長男を養子にいただきたい』とね。勿論、署名の際も『こちらの養子縁組申請用紙二枚に署名を』言いましたとも」
きちんと読んでおれば、その時点で気づいたでしょうと後ろからアレシュが告げる。アレシュは前に出るついでにとディタとその母ラダを連れて来たようでズビシェクの側に押し出した。
「それからだな、お主はマトゥーシュを望んでおったようであるがすでに此奴には婚約者がいる。そう、今日、この日をもって隣国へと婿入りするのだ」
近衛たちからお主の娘のことはよく聞いておるぞとカシュパルは告げる。そして、マトゥーシュにすでに婚約者がいることもいうが、それは学園に通うものならばよく知っていることだった。知らぬのは驚くジャプカ親子だけだった。
「そもそもだ、お主は知らなかっただろうが俺とイルジナは幼馴染で親友だった。そして、王妃の親友でもあった。そんなイルジナを虚仮にされて、私たちが黙っていると思ったのか」
「は?」
「それに我が子らとサシャ、ヴァシィルが幼馴染であることも知らぬのであろう」
「な!?」
ぐっとラディムはそんなことは聞いてないと抗議の意味を込めてサシャの腰を引き寄せる。そんなラディムにサシャはくすりと笑みを零し、その手を優しく宥めるように叩いた。それよりも人々の注目は国王夫妻とジャプカ一家に集まっている。