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怒涛の日々だった。何故か、受けたその日のうちに婚姻届を国王に提出し、そのまま国王も含め、作戦会議をする羽目になった。そして、その作戦の決行日はディタやヴァシィルの成人式兼卒園式。ただ、それだけではなく第二王子が学園での研究を終え、学園を去るお別れ会も兼ねている。また特別な発表があるということもあって、親貴族だけではなく、他の貴族たちも参加するそのパーティ。故にその日は例年の卒園式とは規模が大きく違うモノであった。
そして、動きやすくすることも含め、軍部にはサシャの秘密が共有された。勿論、それにより反発があったが、それら全てラディムの手にかかる前にサシャ自らに伸されることとなった。
「まだ文句があるのであれば、いつでも僕が相手になりましょう」
「いや、ないだろ。ないよな」
「「「「ございません!!」」」」
サシャの実力もさることながら、後ろでにっこりと口元だけに笑みを浮かべる軍団長にそれ以上反発することなどできるはずがなかった。そして、軍部を掌握するといつものような日常にーー戻りはしなかった。ちょいちょい戸惑うものたちがいたからだ。それと同時に女性らしい格好をしないのかなどをサシャにいう猛者たちも現れた。けれど、彼らは半年を経つ頃には理解した。サシャの秘密が共有されると同時期に軍団長が結婚したという噂が出てきていた。相手は誰だと盛り上がったが、本人は特にその噂を気にした様子もなかった。けれど、ラディムがサシャを手放さない様子に聡いものはすぐに気づき、口を噤んだ。触らぬ神に祟りなし。次第にそれは合言葉のように言われるようになっていった。ギクシャクは少しばかり残ったが、普通に喋れるようには戻っていた。
「知ってるか、あれで隠してるつもりなんだ」
「いやいや、それいうなら結婚の噂が出る前から」
「そもそも、あの舞踏会の時から軍団長の態度が変わってたよな」
本人たちのいないところでゴツい男たちが身を寄せ合って、思えばとコソコソと会話を交わす。
「おや、暇そうな人方を発見しました。これは僥倖です。しっかり働いてもらいましょうか」
どんと壁が叩かれたかと思うと彼らの上に降ってきたのはそんな柔らかな声。ただし、見上げたその人の顔は目が笑っていない。
「ここ最近、忙しいんですよ。勿論、わかっていますよね。先程、当日の予定などを確認しにいった際に数人ほど姿をお見かけしてませんでしたが、なるほどこちらでサボっていたと」
「いやいやいや、補佐官、待ってください。俺らは休憩中で」
「わかりました、貴方たちの上司に確認してきましょう」
「さーせん、サボってました。ですので、上司にこの場所はこの場所だけは」
「そうですね、しっかりと働いてくれるのでしたら、口を噤みましょうか」
「「「勿論です!」」」
コクコクと振り子人形のように首を振る男たちに特別任務ですと護衛任務兼監視任務を言いつけた。逃げるように去っていった彼らに苦笑いを零しながら後ろを振り返る。
「内密にお願いします、だそうです」
「いやね、サシャ、いや、うん、まぁ、働くのならいいのか」
彼らの上司は頭を掻き、うんうんと唸ったのち、肩を落とした。
「それで、護衛任務って?」
「あぁ、マトゥーシュ殿下のことを頼みました」
「あーあー、それはもうサボれないじゃないか。ご愁傷様にな」
マトゥーシュは研究のためと言っては度々外出するので近衛たちに大変不評なのだ。サシャはそれを度々友人なのだろうどうにかしてくれと近衛たちに縋られていた。そして、本日、丁度いい人材がいた。勿論、それの護衛となれば、当然その役目が彼らにくるということなのだが、彼らはそれを知らない。
「知らぬが神というではありませんか」
「んー、まぁ、そうか、そうなのかな」
そう、話しながら歩いていれば、横からサシャが消える。えと思って振り向けば、軍団長に攫われていく姿が目に映った。
「……まぁ、あいつらが隠してるつもりだという気持ちはわかるぞ。いくらサシャが大事だとはいえ、軍団長、全く隠せてませんよ。いや、隠す気がないのか、あの人は」