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話し合いが終了し、軍部に戻ろうと歩いていると案の定というべきか、二人の前に集団が現れた。
「いたようだぞ、バカな輩が」
「そうですね、いましたね」
思わずそんな言葉を交わしてしまう二人。けれど、前の集団はそれに気づいていないらしく、サシャを指差し糾弾する。その際、サシャの隣にいたラディムはそっと後ろへと下がる。ちらりとその行動を見て、部下を演じてるつもりですかとサシャは苦笑いを浮かべた。
「サシャ・ジャプカ、ディタ嬢に対する嫌がらせをやめてもらおうか! 貴殿らの言動は家族に対する態度ではない!!」
そして、やはりというか、彼女の言葉を信じ切っている集団にサシャは冷めて目を向ける。
「勘違いをされてるようなのでお伝えしますが、まず僕はすでにジャプカ家の人間ではなく、ザオラル家の人間です。故に家族ではありません。さらに言うなれば、僕も弟であるヴァシィルもこの数年生家であるジャプカ家に足を踏み入れたことはございません」
「な! そんなはずはないだろう! ディタ嬢が嘘をつくはずない! それに足を踏み入れずとも懇意にしていた使用人たちを使うことはできるだろ!」
「残念ながら、自分たちと仲の良かった使用人たちはすでに不当に解雇されておりますので、現在使用人として務めていらっしゃる方々はジャプカ嬢やその母君、父君がお雇いになった方でしょう」
「ハッ、不当だと!? 大方、嫌がらせをしていたことがバレて解雇されただけだろう!」
「あなた方が好き勝手に言うのは大変結構ですが、現在も嫌がらせをされているのであれば、一体誰がしているのでしょうね」
「白々しいことを!」
「ところでずっと気になっていたのですが質問してよろしいでしょうか?」
「は? 何をだ」
小首を傾げながらそう問えば言ってみろとばかりに彼らは言う。そんな彼らにサシャの背後ではくつくつと微かに笑う声。言うことがバレてるなと思いつつ、フッと口角を上げて尋ねる。
「あなた方は誰に対してそのような口の聞き方をなさってるのでしょうか。当人が侯爵、伯爵などと爵位を持っているのであれば良いのですが、拝見する限り誰一人として爵位を冠しているものはいらっしゃらない様子」
養子とはいえ、僕はザオラル侯爵家の人間ですよと言えば、彼らは顔を青く白くする。
「いやいや、ジャプカ家でも同じことが言えるだろう」
「王弟殿下は少し黙っていただけます?」
「お、一人、二人、三人と倒れたな。ハハ、逃げてく奴らもいるな」
「何のために後ろに下がってたんですか」
「なんとなくな」
人の悪い顔をするラディムにサシャは突っかかってきた彼らが哀れに思う。彼らはどうせ部下と共に来ているばかりで、まさかの王弟殿下と一緒にいるとは思ってもみなかったのだろう。サシャの前に出たラディムにお許しをと一生懸命に謝る彼ら。
「俺に謝られたところでどうしようもないんだがな。とりあえず、そこ邪魔だから退いてくれないか」
「は、は、はいぃいい」
ラディムの言葉に震えながらも王弟殿下のために道を開ける。
「じゃあ、戻ろうか、サシャ」
「承知いたしました」
振り返り、そう一言。サシャは頷き、彼の後を追う。
「あぁ、そうだ、人から聞いた話でも糾弾する際はきちんと証拠集めをすることだな」
「それと、そうです、これも大事なことでした。ジャプカ令嬢と仲良くするのはよろしいですが、ご存知かとは思いますけどあの家は公爵になるのが夢なんですよ」
ですのであなた方には一切興味がないのではないでしょうかと言外に含め告げれば、一部は気づいたようで憮然とした表情になる。恋に溺れた結果、抜け殻にならなければいいけれどと考えながら、彼らの前から立ち去った。