プロローグでもあり、エピローグでもある
数奇な運命を辿る少女が居た。
その少女は生まれつき白髪と赤目を併せ持ち、少女が何かに関われば、必ず何十年に一度という珍しい事象が起こった。
くじ引きをすれば毎回一番良い物を引き当て、訪れた先では滅多に花を付けない植物が花を咲かせる。
そのような稀にのみ見られる出来事が彼女の周りではよく起こった。
次第に彼女は奇跡の子と呼ばれるようになっていく。
彼女が歩く空の上には彩雲がかかり、太陽が三つに増える幻日が現れる。
雪の降る国に立ち寄れば空気中を宝石のような細氷が輝き、海に立ち寄れば沖合いに光の柱が現れた。
何人もの人が、マスメディアが、SNSが。
彼女を奇跡の子だと持て囃した。
──そして、彼女が家族3人で乗った大型旅客機が墜落。
乗員乗客616名の内615名が命を落とした中、彼女はただ一人生き残った。
偶然に偶然が重なり、奇跡に奇跡が重なった。
それは『奇跡』と呼べるのか……?
もはや、悪魔的とまで思える程に幸運であった。
それを彼女が望んでいるかどうかを別にしてだ。
飛行機事故の直後、精密な身体検査の末にとある事実が発覚する。
『黄金の血』という言葉に聴き覚えは無いだろうか。
血液というものには型があり、自分と異なる血液型の血を輸血してしまうと拒絶反応を引き起こしてしまう。
しかし、1万人に1人よりも少ない割合で生まれるRh null型の血液は抗原を持たず、理論上は拒絶反応なしで誰にでも輸血可能とされている。
彼女の血がそれだった。
いずれの血液型の人間にも拒絶反応無く輸血出来る血。
黄金の血であった。
彼女は痛ましい事故の後、ある使命感に囚われていた。
自分だけが生き残ってしまったのだから、この命を他人の為に使わなければならない、と。
彼女は本来献血には適さない年齢、体格であったが、彼女からの輸血を希望する者が日夜殺到した。
故に、闇医者まがいの町医者の元で血を抜き、それを希望者に輸血することを是とした。
彼女は毎月限界まで血を抜き、血を欲する者に分け与える歪な生活が幾月か続く。
そんな折、世界規模の流行病が世界に蔓延する。
感染力の高いその病は瞬く間に世界中に広がり、数多くの犠牲者を出していく。
そんな中、少女の住む国で流行病への完全な抵抗を持つ人間が何人も見つかった。
共通点はただ一つ。
彼女の黄金の血を輸血した者達だった。
疫病よりも疾く、黄金の血の噂は広まっていく。
病への恐怖に駆られた人々は、まるで吸血鬼の如く彼女の血を求めた。
ネット上は彼女の血が手に入らないことへの怨嗟の声で溢れ、すれ違う人は皆肉食獣のような目で彼女に縋り付き血を嘆願する。
彼女は、
彼女が、
彼女を、
彼女は、殺された。
白昼堂々、人目につく往来で。
自分の血が人を救うのならばと、名のある病院に血を供した直後、病院の待合室だった。
犯人はすぐに取り押さえられたが、少女は助からなかった。
彼女のドナー登録に基づき、彼女の移植可能な臓器は全て移植される運びとなった。
驚くべきことに、彼女の臓器もまた拒絶反応無く他人に移植できるという非常に珍しい性質を持ち合わせていた。
SNSによる拡散と共に、彼女の臓器移植を希望する者が殺到した。
少女が生前15才以下の子供達に移植して欲しいと話していたこともあり、厳正な抽選を果て、手術の準備が整った患者から順次移植が進められていった。
異例とまで言える希望者の数に押され、通常では行われない部位まで移植が行われた結果、彼女の遺体は移植不可能な部位以外は残っていなかったとされている。
やがて移植可能な部位が全て移植されると、患者にとある異変が起こった。
声が、聞こえるそうだ。
少女の声が。
とてもとても悲しい声が。
求めるのだ。
私の中の少女の体が、バラバラになった少女の身体を。
集めなければならない。
少女の血を、肉を。
どんな犠牲を払ったとしても。