99.植物所属長の長い一日
エド様視点です◎
私、エド・ゲルトナーの朝は早い。
我が家は珍しい種や苗を扱う『ゲルトナー専門店』の為、水やり等の手伝いを行う。父は若くして王宮庭師長を務め、同じく王宮庭師として働いていた母と結婚。庭師の仕事は力仕事も多く、兄を身籠もった母と家族が一緒に暮らせる様にとこの『ゲルトナー専門店』を開く事にしたらしい。
後継ぎの兄がいる為、私は王宮庭師を目指し、植物所属員となった。幸い、私はラシャドル王国でも珍しい土魔法の適性が上級適性なので、植物を育てる事も精霊の使いも私に良くしてくれる。
「さて、もう出発しなくては」
「最近早いな?魔法学校の水やりを1人で終わらせるつもりか?」
「最近、熱心な新入生が入ったんだ」
「ほお、感心だな」
「そうなんだ。行ってきます」
「エドも好きな子ができたのか?」
「そうね、あれは恋ね」
「エドの初恋か。自覚はまだなさそうだな」
エドの出掛けたゲルトナー家の食卓はエドの恋のはなしになるが、勿論、本人は知らぬところ。
リマニーナが魔法学校に登校して水やりを始めるのは早い。楽しみで早く来ちゃうんですとふわっと笑うリマニーナを見ると、私も植物所属長として早めに行かねばと思う。ローズにリマニーナ目当てだと言われるが、そういうのではない。
リマニーナをそんな目で見る不埒な輩が多くて驚いたのと同時に所属長として、所属員を守らねばと気を引き締める。
「エド様!おはようございます!」
「ああ、リマニーナ、今日も早いな」
「エド様も早いですね!校門の入り口からエド様が見えたので走って来たんです」
リマニーナの走りでは大して速くはなさそうだが、リックやチェダに運動音痴を指摘されると頬を膨らますリマニーナを見ているので、はぁはぁと息を吐く、顔の赤いリマニーナを息が整うまで待つ。決して見惚れているわけではない。
「エド様、今日の活動は栗拾いですよね?」
「ああ、沢山落ちているからな」
「楽しみですね!この前のカーキも美味しかったですよね」
「ああ、精霊の使いの1番はやはり違ったな」
精霊の使いに貰った1番美味しいカーキをリマニーナに渡したが、暫くしてリマニーナが戻って来たので、半分こをしようとしたら他の所属員も食べたいと騒いだので全員で食べた。全く遠慮のない所属員だ。
リマニーナと2人で奥の敷地の水やりから開始する。リックも早いのだが、今日は予定があると言っていた。予定があるなら仕方ない。
「エド様!見て見て!」
「どうしたんだい?」
「銀杏の葉っぱが色付いてるの!それにこっちも」
「ああ、昨日は咲いていなかったのに」
リマニーナは植物で興奮すると、私の洋服の裾を引っ張ってみたり話し方が砕ける。リマニーナは気付いていないが、その様子が愛らしく、くすぐったくもある。妹が出来たらこんな感じだろうな。
子供っぽい所があるかと思えば、リマニーナは驚く程、植物、特に木に詳しい。私も所属長として日々勉強は欠かさない。水やりに続々と所属員が集まり、あっと言う前に朝の活動が終わる。次に会うのは放課後の活動だな。
朝の活動を終え、上級生棟に向かう途中、リックに呼び止められる。
「これ、また預かって来ています」
「エディンリーフ家の執事は凄いな」
「ミンツェ村の恩人ですから」
未だにリマニーナ目当てに植物所属員の筆記試験を受ける者が居て驚くが、ある時を境にほとんどいなくなった。
エディンリーフ家の執事がリマニーナに相応しくない者は筆記試験を受ける事が出来ない様にしているらしい。不埒な輩が排除されるのは植物所属としても歓迎するが。
リックに渡された植物所属員の筆記試験をこれから受けようとする者の詳細な資料を見ながら思わず唸る。エディンリーフ家の執事は予知能力があるのか?
何故、これから受ける者が分かるのか……そしてこれが殆ど当たるのだ。
この資料を参考に、誰にどの問題を出すのか決めて行くのだ。ああ、忙しい。
昼休み、今日も今日とて、筆記試験を行う。
朝早くや放課後に筆記試験を希望する者もいるが、
私は生憎忙しい。ああ、早く放課後になればいいのに。
「エド、今日は誰か合格したの?」
「いや、誰も合格はしなかったな」
「させなかったの間違いじゃないの?」
「ローズ、何か誤解してないか?フローリアは合格しただろう」
「フローリアは夏休みの間、家庭教師付けたって言ってたわよ?」
「……こほん」
放課後の活動は、朝の水やりより少し物足りない。
フローリアがリマニーナにベッタリくっついている。どこかのひっつき虫の様だ。
栗拾いを行う所属員に注意をしながら自分も拾い集めて行く。リマニーナは少し抜けている所があるから少し近くに居るようにしている。子供を見守る親の様なものだ。
「アミー!見て見て!大きな栗見つけたの」
「チェダ、拾うの早い!私も沢山拾う」
「もう!リマ!また顔に土がついてますわよ。拭いて差し上げますわ」
「フローリア、ありがとう」
リマニーナは一生懸命拾っているが、栗をひとつ拾うのに栗を眺めては大きいねや形がきれいだねと話しかけていて全然拾えていない。私の栗を少し分けてあげねば。出来の悪い生徒を持つ様な気持ちだ。
「こほん…リマニーナ、栗があまり拾えてないのではないか?」
「エド様!わあ、エド様はカゴいっぱいですね」
「ほら少し分けてあげるからカゴを貸しなさい」
「え?でもエド様がせっかく集めた栗だから大丈夫ですよ?」
「いいからカゴを貸しなさい。所属長命令だ。あと鼻に土がついているぞ」
「……ありがとうございます」
リマニーナの鼻の土をハンカチで優しく拭いてやり、カゴに栗を入れてやると、わあ沢山になったとふわりと笑う。チェダが首を振る様子が見えたが、これは出来の悪い生徒に分けただけであって、邪な気持ちからではない。まったく。
「エド様、植物所属の活動は、雪降らしの雷までですか?」
「ああ、毎年そうだな」
「そうですの?私、リマと会えなくてつまらないですわ」
「おーそうしたら1年生だけでも集まるか?4人なら食堂でも集まれるだろ?」
「いいですわね!チェダもたまにはいい事を言いますわ」
「たまにってなんだよ」
「うんうん!私ももっと植物所属で集まりたいな」
「…こほん、リマニーナ、この話しは私が考えてみよう。チェダ、こういうのは全員で集まる様に考えるように」
ローズと相談して雪降らしの雷以降の活動も考えなければ。リマニーナの為ではない、所属長として植物所属員の為になる活動を考えるだけだ。雪降らしの雷まであまり時間がない。ああ、忙しい。
家に帰ると『ゲルトナー専門店』の手伝いを行う。上級魔法学校の庭師コースに向けての実技の練習にもなるからな。
夕飯の後は、雪降らしの雷以降の活動を考え、エディンリーフ家の執事の資料を参考に試験問題を考え、朝の水やりでこれから咲く植物について勉強する。リマニーナのどんな質問にも答えられるようにしておかねば。答えるとエド様なんでも知ってますねとふわりと笑うのを見るのは嫌いではないからな。
エド・ゲルトナーの一日は今日も夜更けまで続くのだ——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
なんか無性にエド様視点を書いてみたくなったので書いてみました。
エド様って無自覚な恋心っぽいですよね?
今日も一日頑張っていきましょう◎















